今年初め、数千億円規模の巨大プロジェクト「大阪・関西万博」が成功するかどうかが、日本中の注目の的になっていた。

メディアからは厳しい視線が浴びせられていたが、結果は成功だった。ただし、誰も予想しなかった理由によってだ。

来場者数は目標をわずかに下回ったものの、怪奇小説作家ラヴクラフトが描くような青と赤の複数の目を持つ「ミャクミャク」のおかげで、万博は想定を上回る利益を上げた。

ミャクミャクは万博の公式キャラクターにして、最大のスターとなった。

アジア太平洋研究所によると、万博の経済波及効果は3兆円余りに達し、予想を約3000億円上回った。来場者がこのキャラクターのグッズを求めて長蛇の列を作り、記録的な売れ行きを示したためだ。

ミャクミャクが発表された当初、この宇宙的ホラー風デザインには驚きの声が上がった。正直に言うと、筆者も初期の否定的反応に同調し、このデザインは失敗すると考えていた。

だが、万博が開幕すると、ミャクミャクは一転して資産となった。独特の造形が来場者の心をつかみ、当時の石破茂首相と並んで跳ね回る姿は、石破氏が見せた中で最も親しみやすい一幕となった。

2025年に話題をさらったキャラクターは、ミャクミャクだけではない。中国発の「ラブブ」は日本でも人気が広がった。

ハリウッドが世界の映画興行収入で優位を失いつつある中、例外的に健闘している映画の1つがキャラクター色の強い「ズートピア2」だ。

お家芸

ぬいぐるみは時に全てを変える力を持つ。日本はこの教訓をずっと前から理解してきた。

例えば、台湾積体電路製造(TSMC)が日本工場を建設した熊本県のご当地キャラクター「くまモン」だ。11年の九州新幹線全線開業を控え10年にデビューした赤いほっぺのクマは、関連商品の売上高が累計1兆5000億円に達している。

良くも悪くも、その多くが熊本に還元されているわけではない。くまモンは、地元の審査を通れば無料で利用できるライセンス戦略により普及してきた。その結果、至る所で見かけるようになった。

くまモンは各地で多くの模倣キャラクターを生み出し、その数は年々増えている。実際、あらゆるものにマスコットがある。

今年注目を集めた1つが「デリ丸。」で、三菱自動車の軽自動車「デリカミニ」に似た怒った表情の犬のキャラクターだ。トランプ米大統領は最近、軽自動車は「とても小さくて、本当にキュートだ」と述べ、米国内での製造を認めると表明した。

筆者が11月に書いたように、JR東日本が「Suica(スイカ)」のキャラクター、ペンギンを「卒業」させると発表すると、首都圏の通勤客に驚きが広がった。

「ピカチュウ」から「ハローキティ」まで、「かわいい」は日本のお家芸だ。しかし、失敗もある。

延期された20年東京五輪のマスコット「ミライトワ」と「ソメイティ」は名前が呼びにくく、デザインも凡庸だった。ミャクミャクのような熱狂を生み出せなかったのも不思議ではない。

売れ残り在庫が廃棄されたとの報道も多いが、もちろん新型コロナ禍で21年にずれ込み無観客で開催された大会になったという事情も大きかったはずだ。

実際のところ、五輪キャラクターで成功しているのは中国だ。北京で22年に開催された冬季五輪では、パンダの「ビンドゥンドゥン」が大人気となった。08年北京夏季五輪では「福娃(フーワー)」が人気を博した。

キャラクターは、ソフトパワーを発揮する際にも用いられる。ここ数年、英国の事実上の親善大使のような存在となっている「くまのパディントン」がその一例だ。

では、成功するマスコットに必要なものは何か。キャラクターがひと目で分かる独自性を持ち、企業色が強過ぎないことだ。

そう考えると、26年国際サッカー連盟(FIFA)ワールドカップ(W杯)北中米3カ国大会の大使役であるハクトウワシの「クラッチ」とジャガーの「ザユ」、ヘラジカの「メイプル」はそれには当てはまらない。まるで出来損ないのドリームワークス映画から飛び出してきたように見えるからだ。

デザインにパンチがあり過ぎてもいけない。22年カタールW杯の「ライーブ」を覚えているだろうか。大丈夫、ほとんどの人が覚えていない。

アラブの伝統的な頭布グトラを擬人化し、サッカーをする姿は確かに独特だったが、話題にはならなかった。実際、W杯にはぱっとしないマスコットの歴史がある。あの凡庸なキャラクター群のうち、幾つも覚えていられる人がいれば驚きだ。

W杯が巨額の収益を生むようになったことを考えると皮肉な話だ。大阪万博が示した最大の教訓は、キャラクター作りに力を入れていないイベントや製品は、取りこぼす利益が大きいということかもしれない。

6カ月間にわたった大阪万博は10月に閉幕したが、ミャクミャクのグッズ販売は26年まで延長された。では、この愛らしいキャラクターの今後はどうなるのか。

万博会場と同様、その行方はまだ決まっていない。ただ、消えてしまうのは惜しい。関西圏をアピールするイベントの象徴となったミャクミャクは、より大きな役割を担えるはずだ。

大阪にはくまモンほどの存在感を示すマスコットはいない。その役目をミャクミャクに任せるべきだ。大阪にはそれが必要だし、このかわいさを活用しないのはもったいない。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Myaku-Myaku and the Year of the Mascot: Gearoid Reidy(抜粋)

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