リーブス英財務相が26日発表した秋季予算案は、財政の余裕を増強するとともに福祉関連支出を拡大するもので、自身およびスターマー首相の政治的生き残りのために十分な措置を講じる形となった。

投資家の反応は良好で、これまで歳出計画に不満を示してきた与党労働党の一般の議員もおおむね支持した。ただ、総額1兆6000億ポンド(約330兆円)規模の支出を盛り込んだ予算案が、英国の将来を長期的に明るくする兆しは乏しいとの見方が広がった。

リーブス英財務相(11月26日)

英政府が「最優先の使命」と位置づける成長に向けた施策は乏しく、有意な税制改革も示されなかった。さらに、ナイジェル・ファラージ氏率いる右派ポピュリスト政党リフォームUKから再び国民の支持を取り戻すため、労働党議員がスターマー氏に提示を求めてきた大局的なビジョンも盛り込まれなかった。

予算案には170万人もの一般労働者と富裕層に対する増税が盛り込まれ、低所得世帯向けの福祉給付やエネルギー料金支援の財源に充てられる。労働党が2029年までに行われる次の総選挙に向かう時期に、これらの増税の最大部分が実施される。

元財務省高官で、ゴールドマン・サックスのチーフエコノミストを務めたジム・オニール氏は「何も対処しなくてよいかのように振る舞い続けることは刺激に欠け、非常にがっかりだ」と述べた。

リーブス英財務相、さらなる増税の可能性排除せず

英予算責任局(OBR)による予算案の分析はリーブス氏に対して寛容な内容だった。大幅な生産性の下方修正は公的財政を損ない、2029-30年度に借り入れを税収で賄うという主要な財政ルールを守るために必要な財政の余裕99億ポンドを回復するには最大300億ポンドを捻出する必要が生じ、厳しい判断を迫られると見込まれていた。

しかし、今回の修正による財政への打撃は予想を大きく下回る60億ポンドにとどまった。ブルームバーグが2週間前に報じた通り、賃金上昇の加速とインフレ高進が税収を押し上げ、需要の弱さによる影響の多くを相殺したためだ。

それでもリーブス氏は今年、260億ポンドの増税を実施した。一段と大幅な昨年の増税に続くものだ。英有力シンクタンクの財政研究所(IFS)によると、過去1年1カ月の二つの予算を合わせたリーブス氏の増税規模は、少なくとも1970年以来最大となる。税収の国内総生産(GDP)に占める割合は38.3%と、史上最高水準に達する見通しだ。

 

最新の施策は与党の方針転換の費用を賄い、子どもの貧困削減を支えるとともに、エネルギー料金を引き下げ、市場が持続可能性の指標とみなす財政の余裕を120億ポンド積み増して220億ポンドとした。

みずほインターナショナルの欧州・中東・アフリカ(EMEA)マクロ戦略責任者、ジョーダン・ロチェスター氏は「われわれにとって重要なのは見せ場ではなく数字だ」とした上で、「市場は今回のイベントリスクをかなり冷静に受け止めたように見受けられる」と話した。

スターマー英首相(11月26日)

OBRは議会の残る任期の全ての年の経済成長率を下方修正した。英国が抱える長期的課題に対し、打開策がほとんど示されていないとの見方を反映した形だ。

家族向け給付の拡充を受け、労働党左派の議員はおおむね歓迎する姿勢を示した。一方、政府の重要課題である経済成長の押し上げに資する施策が盛り込まれなかったことから、党内右派の議員の反応は比較的鈍かった。

企業団体からも成長を明確に方向付ける計画が示されなかったことに失望の声が上がった。英産業連盟(CBI)のレイン・ニュートンスミス最高経営責任者(CEO)は「政府の成長ミッションは現在行き詰まっている。財政余力の確保には成功したものの、税制への場当たり的なアプローチは経済をニュートラルな状態にとどめかねない」と述べた。

リーブス氏は、市場が期待していたよりも財政の余裕の積み増したものの、増税の大半を先送りしたことで失望を招いた。借入額は予測期間で570億ポンド増加し、政府債務のGDPに対する比率は、今年度の95%から28-29年度に97%へ上昇し、同氏の財政ルールが適用される年度には96.8%に小幅低下する見通しだ。

原題:Reeves’ Budget Wins the Day, But Stores Up Future Problems(抜粋)

--取材協力:William Shaw、Greg Ritchie、Will Standring.

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