(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会(FRB)内で意見の隔たりがここにきて鮮明になっている。12月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合を控え、FRB当局者がさまざまな見解を表明する中、パウエル議長は沈黙を保ったままだ。
前週末21日には、パウエル議長の立場を代弁する存在とされるニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が近いうちに再び利下げを行う余地があるとの見方を表明。それまで複数の当局者から利下げに慎重な姿勢を示す声が上がっていただけに、FRB内部の温度差が改めて浮き彫りとなった。
パウエル議長は前回の10月会合以降、公の場で発言していない。だが、最近のFRB高官の発言を総合すると、今年投票権を持つFOMCメンバーは次の対応を巡って意見がほぼ真っ二つに割れており、いずれの決定が下されても、12月9-10日開催の会合では反対票が出るのはほぼ確実な情勢だ。

かつてパウエル体制下で反対票はまれだったが、今年に入って増加傾向にある。低迷する労働市場の下支えとインフレ抑制という相反する目標の間で難しい舵取りを迫られているためだ。6月のFOMC会合以降、一度も全会一致の決定には至っていない。さらに政府機関の閉鎖に伴う経済データの公表の遅れが、合意の形成を一段と難しくしている。
「パウエル議長が現在、前面に出ていないことでFOMCメンバー全員がそれぞれ意見を述べ、耳を傾けてもらえる状況になっている」。こう指摘するのはFRBの元エコノミスト(現ニューセンチュリー・アドバイザーズのチーフエコノミスト)のクラウディア・サーム氏だ。「議長はあえて意見の相違を許容する余地を与えており、これは実際には良いことだ。状況は難しく、こうした議論を行うべき局面だからだ」と語った。
市場も混乱
FRB内の意見が割れる中、12月利下げの可能性を巡り市場も対応に追われている。これまでFRBの総意を重視してきた投資家の間では、いまや各当局者の票読みが始まった。
10月会合を控えていた時期は、12月の利下げがほぼ確実視されていた。しかしその後、FRB高官からタカ派的な発言が続出。フェデラルファンド(FF)金利先物市場では利下げの織り込みが大きく後退し、一時は30%を割り込んだ。だが、21日のウィリアムズ総裁の発言後、一転して60%超に回復した。
FRBは長年にわたりコンセンサス(総意)に基づく金利決定を誇りとしてきた。この手法はパウエル議長の体制を象徴する特徴でもある。
FRBが年8回開催する政策会合で反対票が少ないことは、決定に対する自信の表れとされる。また、こうした意見の一致がFOMCの意図を明確かつ効果的に伝える上で有効だとする調査結果もある。一方で、重要な異論を抑え込む「集団思考」を招く要因になっているとの批判もある。

今年のFOMC会合ではFRB内の不協和音が高まっている。7月の会合ではウォラー理事がボウマン副議長(銀行監督担当)とともに金利据え置き決定に反対票を投じた。FRB理事2人が議長に反対するのは32年ぶりだった。
9月中旬の会合では、トランプ大統領の指名で同月から会合に参加したマイラン理事が0.50ポイントの利下げを求め、0.25ポイントの利下げ決定に反対。10月会合でも同じ理由で反対票を投じた。
一方、カンザスシティー連銀のシュミッド総裁は10月の会合で追加利下げはインフレ再燃を招く恐れがあると主張。金利据え置きを求めて反対票を投じた。
こうした見方はその後の数週間でFRB内に拡大。今年のFOMCで投票権を持つ12人のうち5人が、12月の会合で金利を据え置く方向に傾いていることを示唆している。
これまで労働市場への配慮を重視してきたバー理事も「今は金融政策の運営において慎重かつ注意深くあるべきだ」と述べ、追加利下げに慎重な姿勢を示した。
過去にハト派とされてきた他の当局者の中にも、来月の据え置きを容認する声が出ている。シカゴ連銀のグールズビー総裁は約3年前にFRBメンバーに就任して以降、一度も反対票を投じてこなかったが、必要と感じれば反対する用意があると表明。
今年は近年のFRBに比べ反対票が多いことを認めつつも、それ自体は健全な兆候だと強調した。
こうした状況の中、12月の政策決定は近年まれに見る僅差での決定となりそうだ。ドイツ銀行のシニアエコノミスト、ブレット・ライアン氏は、ウィリアムズ総裁の発言によって利下げの方向が事実上固まったとの見方を示す。
一方で、そうとは限らないとの指摘もある。前出のサーム氏は「まだ五分五分だと思う」と話した。

原題:Fed Watchers Turn to Vote Counting as December Rate Drama Grows(抜粋)
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