台湾有事を巡る高市早苗首相の発言を受けた日中対立で、中国が経済的威圧をさらに強めた場合、日本は米国や同盟国との協力強化を探る可能性が高い。

中国は日本への渡航自粛勧告や水産物の輸入停止、映画の公開中止といった制裁措置を矢継ぎ早に発動。中国の経済的な影響力に加え、日本の対応余地が限られることが浮き彫りとなった。

日本は現時点で報復の応酬になる展開は避け、対話の窓口を維持しつつ時間の経過とともに緊張が和らぐことを待つ従来の戦略を堅持している。しかし対立が長引けば、日本は米国や立場を同じくするパートナー国との連携をより緊密に図るとみられる。

高市首相

かつて米国の香港総領事を務めたカート・トン氏(現在はアジア・グループのマネジングパートナー)は「日本側は今のところ、事態をエスカレートさせるのではなく、出口を探っている」と指摘。「だが、中国側が圧力をさらに強め続ければ状況は変わり得る」と述べた。

米国は日本を支持する立場を示している。グラス駐日米大使は日中間のいかなる対立においても米国は日本を支持すると表明。できることがあれば「何でも」手伝うと申し出たトランプ米大統領の発言を踏襲する格好となった。またグラス氏は高市氏の発言に対する中国の反応は「常軌を逸している」と断じ、日米同盟は引き続き地域の平和維持に焦点を当てていると述べた。

協力を探る分野として考えられる選択肢の一つがテクノロジーだ。日本は半導体製造装置の輸出規制強化を検討する可能性がある。ただ、半導体製造装置は昨年の対中輸出の10%以上を占める主要セクターで、輸出規制強化に伴う日本経済への潜在的な打撃についても慎重に見極める必要がある。

 

日本は半導体製造技術の分野で影響力を持っており、先端品から汎用品まで幅広い半導体の製造に不可欠な装置や素材を供給している。だが、日本政府には中国ほど国内企業を統制する力がなく、中国向けの売上高比率が高い日本企業の多くは政府が明確に履行を迫らない限り対応をためらう可能性がある、とブルームバーグ・インテリジェンスの若杉政寛アナリストは指摘する。

「米国の支援を得られるかどうかで状況は全く異なる」と若杉氏。「両国が協力すれば、世界の主要な半導体製造関連の供給品を押さえ、中国の半導体産業に一段と深刻な打撃を与えることができる」と語った。

問題の沈静化を待つ日本の戦略にとってリスクとなるのが、中国が圧力を強め続けるという展開だ。中国がいずれレアアースの輸出制限に踏み切ることもあり得る。中国は尖閣諸島問題で対立した際も日本へのレアアース輸出を制限。その後も、世界が中国の供給網への依存を強めている状況を利用して、米国や欧州にも同じような痛みを与え得ることを示してきた。

日本は2010年の輸出規制を受けて、レアアースの供給源を多様化させる方向にかじを切った。豪ライナス・レア・アースに出資したほか、リサイクルを含む代替資源を探り、供給ショックに備えて備蓄の積み増しも進めている。

ユーラシア・グループの上級アナリストで、かつて米国の外交官として中国と日本に駐在した経歴を持つジェレミー・チャン氏は「中国が供給を制限すれば、日本は米国に支援を求めるか、第三国を通じて重要鉱物の確保に動く可能性が高い」と話す。

豪ライナス・レア・アースの施設

それでも、日本は依然として中国の影響を受けやすい状況にある。日本エネルギー経済研究所・石油情報センターの佐々木忠則所長によると、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー需要の急増を背景に、日本の中国産レアアースへの依存度は従来の約60%から2020年代に入って約70%へと再び上昇している。

アナリストは今回、中国が全面的な輸出禁止に踏み切る可能性は低いとみている。米国との外交的な緊張緩和や脆弱な「貿易休戦」を踏まえ、中国としても不安定化を招く行動は避けたいためだ。

もっとも、中国には他にも日本を「いじめる」手段がある。「中国が日本向けのレアアース輸出を全面的に禁止する可能性は低いものの、輸出許可の遅延や手続きの厳格化といった措置を講じるかもしれない」と、ジャーマン・マーシャル財団のインド太平洋プログラム担当マネジングディレクター、ボニー・グレイザー氏は指摘する。

 

対立が長引けば、日本はより幅広い外交支援を求める可能性が高い。日本は中国の行動を非難する、あるいは外交的解決を促す上で、主要7カ国(G7)メンバーに支援を求めるだろうとユーラシア・グループのチャン氏は述べる。同時に、日本は中国への直接的な働きかけも強化する公算が大きいとし、中国への報復には極めて慎重な姿勢を維持する見通しだという。

米国務省のピゴット副報道官は20日、日本の防衛に対する米国の責務は揺るぎないと述べ、その対象には日本が施政権下に置く尖閣諸島も含まれると表明した。

日本維新の会の石平参院議員

それでも、トランプ政権下で米国が安全保障上の信頼できるパートナーであり続けるかについては疑問が残る。コンサルティング会社トリビアム・チャイナの上級アナリスト、ジョー・マズール氏は「日本や韓国など他国の指導者だったら、米国の安全保障上の確約に対する信頼はかなり薄れていると感じるだろう」と述べた。

日本維新の会の石平参院議員は今回の日中対立について、日本が中国への依存度をさらに引き下げる必要性を浮き彫りにしていると語る。

中国は日本に圧力をかけるため、政治と商取引の境界をしばしば曖昧にしてきたとし、中国とのビジネスは一段と予測が難しくなっていると述べた。その上で、対応策として一定の経済的デカップリング(分断)を受け入れざるを得ないと話した。中国出身で2007年に日本国籍を取得した同氏は現在、中国から入国を禁じられている。

原題:Japan Set to Lean on US Allies for Support If China Escalates(抜粋)

--取材協力:Yusuke Maekawa、Alastair Gale、Yasufumi Saito、ジェームズ・メーガ.

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