(ブルームバーグ):高市早苗首相の就任後初となる総合経済対策の歳出膨張懸念を巡り、ドイツ銀行の外国為替調査責任者ジョージ・サラベロス氏は、大型減税案に伴う財政不安で、英国債とポンド相場が急落したトラス英政権の2022年の危機をほうふつさせ、無秩序な資本逃避が憂慮されると指摘した。
サラベロス氏がロンドン時間20日に電子メールでコメントを公表した。日本国債と円相場が同時に下落する今の状況は、日本銀行がハト派的な金融政策スタンスを維持する中で、高市政権の経済対策が財政の健全性を悪化させるとの不安を反映するものだ。
ドイツ銀のサラベロス氏は「円と日本国債名目相場のロングエンド(長期ゾーン)が、いかなる適正価格指標からも乖離(かいり)し始め、日中相関が加速しつつある現状が心配される」と分析。「政府・日銀の低インフレへのコミットメント(積極的関与)に対し、国内の信頼が失われれば、日本国債を購入する理由が消失し、より破壊的な資本逃避が続いて起きる」と警告した。
サラベロス氏によれば、政府・日銀はこれまでのところ最近の動きを容認しているように見えるが、現在の価格変動が今後も続けば、静観できるか疑わしい。
「日本市場のより広範な資本逃避の兆しを数週間注視していく。明確な兆候としては、今の価格動向が株式市場に波及したり、日本国債がグローバルな債券トレンドから乖離し続けたりすることが挙げられるだろう」と同氏は説明した。
22年のトラス英政権の危機では、財源の裏付けのない減税案が投資家を動揺させ、ポンド相場は37年ぶりの安値に急落。英国債市場も崩壊の瀬戸際に追い込まれた。
日本政府が21日に閣議決定する経済対策の膨張が財政悪化につながるとの懸念が広がり、10年国債利回りは2008年6月以来約17年半ぶりの高水準に上昇した。円相場も1ドル=157円台後半と1月中旬以来の安値を付け、日銀が介入に動く可能性のあるゾーンに接近した。
英国債市場の危機は、年金基金が長期債の換金売りを迫る圧力にさらされたことも一因だ。日本の市場構造に組み込まれたレバレッジ投資家に同じようなリスクの兆候は今のところ見られない。
警戒感を示すのは、サラベロス氏だけではない。ソシエテ・ジェネラルのグローバルストラテジスト、アルバート・エドワーズ氏は、日本の長期国債利回りの上昇について、「ごく少数の投資家しか注意を払っていない重大な警告サイン」との認識を示す。月初の段階で約3%だった30年国債利回りは20日に3.35%を上回る水準で取引された。
エドワーズ氏によると、「パニック売りはまだないが、利回りは徐々に容赦なく上昇している。日本主導の国債の長期的な弱気相場は、過去40年間にわたり株式と不動産で進行した資産評価のインフレを解消する可能性が高い」という。
原題:Deutsche Bank Warns of Japan Capital Flight in Echo of UK Crisis(抜粋)
(別のストラテジストの見解を追加して更新します)
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