(ブルームバーグ):吉野家ホールディングス(HD)の成瀬哲也社長はブルームバーグのインタビューに応じ、注力するラーメン事業について「新しいものを買っていくよりも、既に買っているブランドを成長させる」と述べた。2027年までは既存ブランドの育成に集中し、その後に投資を加速させる意向を明らかにした。
成瀬氏は同事業の現状について「一緒になったけどなかなか(規模が)増えない」とこぼす。グループに集まった強みをいかに生かすかが課題となっており、約3カ月前から自ら世話役になって傘下のラーメン企業と戦略を練っていると明らかにした。
同社は29年度までの経営計画で、国内外のラーメン事業買収などに400億円の新規投資を計画する。同時に、ROIC(投下資本利益率)は7%に引き上げる目標だ。利益成長に比べて借り入れが大きく膨らむとROICは下がってしまう。このため成瀬氏は既存事業の収益力を高めることが先決だと強調した。
ラーメン事業を含む「その他」セグメントの上期(3月-8月期)の売上高は72億円と、牛丼チェーン「吉野家」セグメントの約10分の1だ。ただラーメンは牛丼より高単価でスープの味やトッピングなどメニューの幅が広い。牛丼に偏った収益の分散につながるメリットもあり、同社は新たな柱に育てる狙いだ。16年の「せたが屋」を皮切りに相次いだ買収で職人によるスープや麺作りの知見、店舗運営のノウハウはそろった。
同社の目指す形がうかがえるのが、13日に上海でオープンする新店舗だ。ブランドは「キラメキノトリ」で、主力の鶏白湯ラーメンは39元(約840円)、台湾まぜそばは40元(約860円)で提供する。現地の日系ラーメン店よりやや高く設定した。
現地調達した食材を使って日本の味わいを出すために職人が知恵を絞り、江蘇省に新設した工場では昨年買収した宝産業がスープや麺を製造する。輸送には吉野家の物流網を活用するなど、一連の取り組みでコストを削減した。こうした連携は日本でも採り入れることができるとみて検討を進めている。
薄利多売あり得ない
中国は熊本発の「味千ラーメン」が既に約600店を展開している。家系ラーメン「町田商店」のギフトホールディングスは現在の3店から28年までに30ー50店へと拡大させる計画だ。力の源ホールディングスの「一風堂」も9月時点で香港を含め14店舗を持つ。
調査会社グローバルインフォメーションによると世界市場は30年までに、24年の1.5倍の約903億ドル(約14兆円)への成長が見込まれており、海外展開の流れは今後も進みそうだ。
成瀬氏の念頭にあるのは多ブランド展開だ。「一つのブランドで攻めていこうとすると無理がある」とし、別ブランドにも生かせるようなノウハウの獲得を重視する。
新設した江蘇省の工場は吉野家向けに牛肉やタマネギをスライスする目的があるため無駄にならず、失敗したとしても大きな損失にはつながらないという。
一方、欧米市場ではより単価が高い商品を展開し、中・高所得者層をターゲットにしたいと述べた。麺が入った汁物を食べる習慣があるアジアとは環境が異なるためだ。吉野家の世界展開と共通するポイントとして「薄利多売はもうあり得ない」と指摘した。
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