年末商戦の幕開けとなる米感謝祭翌日の「ブラックフライデー」を目前に控えたこの時期、2024年にはアッシュハーバーのハードウッド製ウイスキーディスペンサーやシンクフィットの食品容器が10-20%引きで売られていた。しかし、今年は定価販売となっている。

その理由は関税にあると、両ブランドを展開する親会社のオーナー、ダン・ペスコース氏は語る。

同氏が率いるアップストリーム・ブランズは、アマゾン・ドット・コムなどで商品を販売しており、年間売上高の最大35%をホリデーシーズンに稼ぐ。だが、同社の調達先はトランプ米政権による追加関税の対象国だ。金属への米関税の影響で、昨年は20ドル(約3000円)弱だった銅製のハーブ用調理器具ハーブストリッパーが、今年は約30ドルに値上がりしている。

ペスコース氏は「関税によって原価が非常に高くなっているため、値引き販売は採算が合わない」とした上で、「消費者の懐具合に余裕がなくなり、全体的に支出を抑えていることが懸念される」と話した。

高級バッグのコーチからウェルネス機器メーカーのセラボディに至る幅広い企業が値引き販売を手控えているが、その理由は必ずしも同じではない。関税やインフレを理由に挙げる企業もあれば、ブランド価値を維持しようとしている企業もある。

アリックスパートナーズでファッション小売り部門を率いるソニア・ラピンスキー氏は「今年のホリデーシーズンは極めて異例だ。小売業界には多くの課題がある」と指摘。多くの企業は関税第一波を吸収したが、現在はもはや従来のような値引きを提供する「余裕がない」とも述べた。

セラボディも同様の状況にある。329.99ドルのマッサージ機や379.99ドルのLEDマスクを製造する同社では、多くの商品を割引価格で販売するものの、昨年ほどの割引幅は難しいとモンティ・シャルマ最高経営責任者(CEO)は語った。

関税の影響でセラボディは今年、5-7%の値上げを余儀なくされた。同社は生産の一部を中国以外に移している。

経済全体でコストが上昇する中、可処分所得は減少しており、販促抑制にはリスクが伴う。プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の調査によると、消費者は慎重姿勢を強めており、ホリデーシーズンの平均支出額は昨年比で5%減少する見込みだ。17-28歳の若年層では、ホリデー向け予算が23%減ると予想されている。

グローバルデータのマネジングディレクター、ニール・ソーンダース氏は、小売業者は「板挟みの状況」にあると指摘。「利益率を守りたいものの、競争は激しく、消費者が値引きを期待していることも分かっている」と述べた。

ニューヨークの店舗のブラックフライデー向けディスプレー(2024年)

ソーンダース氏は、ブラックフライデーには「かなり妥当な」割引率が見込まれるとしつつも、その多くは値上げ後に設定されるため、実際の値引き幅は見た目ほど大きくないとの見方を示した。

値引き縮小の理由は関税だけではない。コーチは商品を定価でも買いたくなるような「魅力」を維持したい考えだ。

コーチのトッド・カーンCEOはブルームバーグ・ニュースに対し、「市場の一部では販促活動が続いているが、当社は数年前から意図的に大幅な値引きを控えている」と語った。同社は新商品や先行販売などで消費者の関心を喚起する戦略を取っている。

コーチのバッグの展示(2024年)

ナイキ、リーバイ・ストラウス、ラルフ・ローレンも同様に、値引きを減らすか段階的に廃止する戦略を採用している。自社の商品を高級感と話題性のある存在に保ちたいからだ。値引きはブランドの商品が売れていないという印象を与える恐れがあり、特に高級ブランドは値下げに消極的だ。

それでも消費者は依然として超特価品を求めている。米ミシガン大学が発表した11月の消費者マインド指数(速報値)は3年ぶりの低水準となり、雇用や物価高への懸念が強まっている。

ニューヨーク市の歯科医で27歳のオリビア・デコ氏はホリデーショッピングについて、「定価では買いたくないものが多い気がする。大幅な値引きがなければ買わないつもりだ」と話した。

原題:Tariffs Are Forcing Brands to Cut Back on Black Friday Deals(抜粋)

--取材協力:Jaewon Kang.

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