(ブルームバーグ):高市早苗首相は10日、台湾有事が日本の集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得るとした自身の7日の国会答弁を撤回しない考えを示した。
高市首相は7日の衆院予算委員会で、台湾有事に関し存立危機事態にあたる具体例を問われ、戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、存立危機事態になりうるケースだと考えると答弁。これに対し、中国の駐大阪総領事はSNSに首相への脅しとも受け止められる投稿をしていた。
10日の予算委では、「どのような事態が存立危機事態に該当するかについては、実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して政府が全ての情報を総合的に判断すると答弁している」と語った。政府の従来の見解に沿っており、「特に撤回・取り消しをするつもりはない」と述べた。
7日の自身の発言については、「最悪のケース」を想定したと説明した上で、「政府統一見解として出すつもりはない」と語った。今後の反省点として、特定のケースを明言することは慎むとも述べた。立憲民主党の大串博志氏への答弁。
駐大阪総領事
中国の薛剣駐大阪総領事は9日、X(旧ツイッター)で、「『台湾有事は日本有事』は日本の一部の頭の悪い政治屋が選ぼうとする死の道だ」と投稿した。
産経新聞によると、同氏は別の投稿で「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない」と書き込んだ。この投稿は現在、確認できなくなっているという。
削除された投稿についてコメントを求めたところ、中国外務省の林剣報道官は10日の記者会見で、この投稿は「台湾を中国から切り離そうとする誤ったかつ危険な発言への対応だ」と述べた。
林氏は、「一部の日本の政治家やメディアがこの投稿を意図的にあおり、混乱を招き、注意をそらそうとするのは無責任だ」と指摘。高市氏の7日の発言については、「台湾海峡への武力介入の可能性を示唆している」と批判した。
大阪の総領事館に繰り返し電話をかけたが、応答はなかった。
米国のグラス駐日大使はXへの投稿で、薛氏は高市首相と日本国民を脅しにかかっていると指摘。「中国政府は『良き隣人』を口癖のように繰り返すが、全く実態が伴っていない」との見方を示した。
木原稔官房長官は10日午前の記者会見で、薛氏の投稿について「趣旨は明確ではないものの、中国の在外公館の長の言論として極めて不適切と言わざるを得ない」と指摘。日本政府として中国側に抗議したことを明らかにした。
先週の首相答弁については、「従来の政府の立場を変えるものではない」と述べた。台湾を巡る問題に関し、日本政府の従来からの一貫した立場として「対話により平和的に解決されることを期待する」と語った。
安全保障関連法
2015年に成立した安全保障関連法では、密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し日本の存立が脅かされる存立危機事態と政府が認定すれば、自衛隊が集団的自衛権を行使できる。歴代政権は、具体的にどのような状況がその対象となるかについて明示することを避けてきた。
インディアナ大学ハミルトン・ルーガー・スクールで日本の政治と安全保障を専門とするアダム・リッフ教授は、高市氏の発言について、台湾有事の際に特定の行動を取るという約束と受け取るべきではないとの見方を示した。
リッフ氏は、高市氏の発言は「明確な立場の変化というよりも、日本政府内で議論され、多くの政治家や識者が公の場でも指摘してきた一つの可能性を率直に認めたものと理解するのが適切だ」と述べた。
(中国外務省の報道官や有識者のコメントなどを追加し、更新しました)
--取材協力:下土井京子、村上さくら、関根裕之、鈴木克依.
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