(ブルームバーグ):かつてオーストラリアの金融グループ、マッコーリー・グループの銀行員だったロバーツ兄弟が始めた暗号資産(仮想通貨)ビットコインのマイニング(採掘)事業は、激動の展開をたどってきた。
新型コロナ期の仮想通貨ブームが最高潮に達した2021年11月にIRENを上場したものの、同社の株価は翌年、96%急落。兄弟は価値が大幅に低下した株を抱えることになった。
しかし1年半前、兄ダニエル氏(41)と弟ウィル氏(35)は仮想通貨事業から脱却し、人工知能(AI)ブームを支えるデータセンターとコンピューティング需要への対応にかじを切った。
その転換が功を奏した。IRENは米マイクロソフトと約97億ドル(約1兆4900億円)規模の契約を締結。AI向けに計算能力を提供する。
ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、今回初めて評価対象となったダニエル氏とウィル氏の純資産は計8億4600万ドルだ。
兄弟が18年に創業し、当初「アイリス・エナジー」と呼ばれていたIRENの株価は、年初来で500%余り上昇している。
ダニエル氏はインタビューで、「物事は思ったほど悪くも良くもない。われわれはいつもそう言ってきた」と述べた。
「兄弟で取り組む利点は、お互いに挑戦し合い、徹底的に分析し、間違っていれば素直に認めて方向転換できることだ。今のところうまくいっている」と明らかにした。
今回の5年契約により、マイクロソフトはIRENの総容量の10%を使用する最大の顧客となる。
IRENにはさらに契約を広げ、収益を増やす余力もある。同社はカナダと米国に再生可能エネルギーで稼働するデータセンターを所有している。
インフラ金融の経験
AI向けの高度な計算処理に特化するデータセンター運営企業の1社がIRENだ。米コアウィーブやオランダのネビウス・グループ、米クルーソなどもマイクロソフトや米OpenAIのような大規模AI事業者、いわゆる「ハイパースケーラー」への供給を競っている。
IRENと同様、これらの企業の多くはもともとビットコインのマイニングから出発し、AI分野へと事業を広げている。
香港大学経営学院の何国俊教授(経済学)によれば、「この契約はIRENの企業アイデンティティーにとって画期的な転機」で、「ロバーツ兄弟はもはや世界的なAIインフラのリーダーとして認識されつつある」という。

ダニエル氏にとって、ビットコイン採掘からAIコンピューティングへの転換は自然な流れだ。どちらの事業も、社会の急速なデジタル化と、それを支える膨大な電力および物理的データセンターの需要に突き動かされている。
「シード投資家とのミーティングでは、『マトリックス』『レディ・プレイヤー1』『シュガー・ラッシュ』のような映画をよく話題にしていた」と共同最高経営責任者(CEO)のダニエル氏は説明。
「われわれの見方は、世界はオンライン化し続け、その結果、計算能力への飽くなき需要が生まれるというものだった」と打ち明けた。
兄弟はシドニーで育ち、シドニー工科大学で経営学を学び、共にマッコーリーに入った。ウィル氏はコモディティー・グローバルマーケッツ部門の副社長として、マッコーリーのデジタル資産チームを共同で設立。ダニエル氏はその後、インフラファンド運用会社パリセード・インベストメント・パートナーズのエグゼクティブディレクターを務めた。
2人はその過程でビットコインに関心を持つようになり、13年ごろからトークンに関わり始めたという。仮想通貨への関心とインフラ金融の経験を背景に、兄弟は18年にアイリス・エナジーを共同で創業した。
「ビットコインはコンピューティングとデータセンタープラットフォームを収益化する良い手段だった」とダニエル氏は振り返った上で、「数年間はその事業を続けたが、より高付加価値な用途が出てきたときには、すぐに方向転換した」と明らかにした。
原題:Ex-Bankers Who Faced Wipeout Make $850 Million From AI Pivot (1)(抜粋)
--取材協力:Dina Bass、Pui Gwen Yeung、Tom Maloney.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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