米資産運用大手ブラックロックでは、120億ドル(約1兆8500億円)を投じたHPSインベストメント・パートナーズ買収が完了した直後、HPSが関与していた投資案件で重大な問題が発覚した。

事情に詳しい関係者によれば、HPSは仏大手銀行のBNPパリバと組み、無名の実業家バンキム・ブラームバット氏が率いる企業グループに数億ドル規模を融資していた。HPSはその中でも最もリスクの高い部分を引き受け、世界的な大手通信会社からの売掛金で担保されているとされていた。しかし実際の担保は偽ドメインからのメールや偽造署名によってねつ造されていたことが、7月の社内調査で判明した。

HPSはこれを受け、約1億5000万ドルのエクスポージャー全額を償却した。融資先のブロードバンド・テレコムとブリッジボイスは破産を申請した。ブラームバット氏の弁護士や、ブラックロック、BNPパリバの担当者はコメントを控えている。

この失敗は、急成長中のプライベートクレジット市場において成功を収めてきたHPSに大きな打撃を与えたほか、資産担保融資(ABF)に対する監視の目を一段と厳しくすることになった。大手米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は「ゴキブリが1匹見つかれば、他にもいる」と警告。これを受けてオルタナティブ資産運用会社ブルー・アウル・キャピタルのマーク・リップシュルツCEOは、銀行主導の融資に問題があると反論した。

HPSは1800億ドル近い資産を運用しており、今回のエクスポージャーは小さい。償却が影響を与えたのは、30億ドル余りを運用するアセットバリュー戦略の一部を成す2つのファンドだ。両ファンドは9〜11%のリターンを目指していた。関係者によれば、最も影響を受けた3号ファンドは、リターンがレンジ下限に近いとみられる。

アセットバリュー戦略は、HPSが資産担保型融資事業を拡大するために推進してきた取り組みの一環だった。これらのファンドは、銀行や専門の引き受けプラットフォームから新たなローンを継続的に取得する必要がある。関係者によれば、問題の通信企業関連ローンはHPSが内部で組成したものではなく、外部から持ち込まれたポートフォリオだった。

大胆な詐欺の実態

HPSは現在、資金を回収しようと複数の訴訟に関与している。ニューヨーク州とデラウェア州で提起された一連の訴訟では、複数の貸し手や債権者が「息をのむほど大胆な」詐欺の実態を明らかにし始めた。担保の多くは実在せず、メールアドレスやドメイン、署名の偽造によって実行された融資は、モーリシャスやインドなど監視が届かないオフショア口座に送金されたという。被告側は訴訟に対して何ら回答せず、破産申請により訴訟は自動的に停止された。

ブラームバット氏は1989年、インドでバンカイ・グループを創業。同国の通信規制緩和を背景に事業を拡大した。2017年にはノンバンクのキャリオックス・キャピタルを設立。同氏は2024年のポッドキャストで、「なぜ自分のビジネスを通信事業者の資金で運営しなければならないのかと考え、市場から資金を調達すればよいことが分かった」と述べ、「われわれはパートナー企業の運転資金調達に関与するようになった」と語っていた。

BNPパリバは同氏のビジネスに対する関与を公的に認めていない。7-9月(第3四半期)にトレーディング部門が、「特定の与信案件」に関連して1億9000万ユーロ(約340億円)の損失を計上したと先月明らかにしたが、経営陣は顧客名を明かさなかった。

同行のラルス・マシュニル最高財務責任者(CFO)は「グローバル市場で特定の案件が一つあったが、詳細や名称は公表しない」とブルームバーグテレビジョンで述べた。「ただ、それは常連の問題先ではなく、決済関連の分野に属する案件だ」と続けた。

原題:Credit Fraud Fears Loom After BlackRock’s HPS Zeros Out Bad Loan(抜粋)

--取材協力:Eliza Ronalds-Hannon、Claudia Cohen.

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