4|味噌汁は「動く」ではなく「浮く」?

以上のように、味噌汁の状態を考えてみると、味噌汁は左右に押されて動くというものではなく、高台の空気によって持ち上げられており、ただ左右のバランスや些細な力によって左右にさまよっているに過ぎないことが伺える。

すなわち、味噌汁は動いているというよりは、空中に浮かぶように移動しており、「ホバリング(浮上)」していると言えるのではないか。

味噌汁が動くのを防ぐ工夫

味噌汁が動く原理が判明すれば、それを防ぐのはたやすい。

例えば鉛のような重いお椀を用いれば、常識的な温度では気圧で持ち上げられることはないだろう。もっともこの場合「常識的な重さ」から逸脱することになるわけだが。

また、断熱材を使用して高台の空気を温めない方法も考えられる。もしくは、熱した空気を閉じ込めずに循環させる方法もあるだろう。このためには「高台に切れ込みのあるお椀」を用いれば良いのでだいぶ現実的である。

実は「高台部分に切れ込みのあるお椀」はすでに存在している。この構造であれば熱された空気が高台の外に出るため、気圧がお椀を持ち上げることはなくなるだろう。

もっともオンラインショッピングなどで類似商品の説明を見ると、「高台に切り込みがありますので、水切れが良いです。」という言葉に示されており、この切り込みの趣旨は水切れを狙ったものであって、味噌汁の移動を防ぐために設計されたものではないようだ。

その他の要因

上記では、高台内の気体が熱されることのみ注目したが、実際はもう少し他の要因も考えられるだろう。以下では、そのような要素を挙げ、簡単に触れる。

1|テーブルの水の気化

高台とテーブルとの間にある液体の水が、味噌汁の温度によって熱され、一部気化することが考えられる。この気化した水蒸気も、高台内での気体となり味噌汁を上方に押し上げる要因となるだろう。

一般に、気体になると液体よりも体積が大きくなる。その体積を小さい高台内に収めようとすると気体の圧力が上がる。液体のままであれば味噌汁を持ち上げる効果は無いが、このようなプロセスを経て、テーブル上の水も気体となることで味噌汁を持ち上げる効果を発揮することが考えられる。

もともと気体であった高台内の空気がボイル・シャルルの法則によって気圧が上がる効果よりも大きい効果を発揮する可能性も考えられる。

2|液体の水という潤滑剤

液体の水が高台とテーブルの間に入ることで、静止摩擦係数が小さくなることが考えられる。

アイススケートのリンクが滑るのも、氷自体が滑るのではなく、スケートの刃で氷が圧縮されて液体の水となり、その水が滑ると説明されるのが一般的と理解している。水は圧力によって固体(氷)から液体(水)へと状態変化する特殊な物質でもある。

まとめ

味噌汁が動くのは、「高台に閉じ込められた気体によって、味噌汁が限りなく浮いている状態にあるため」という示唆を得た。

思考実験のみであるため、結論を断言するには更なる検証が必要であると考えられるが、研究員として、また父親として息子に「自然から学ぶ姿勢」を実践する機会となったと考える。

※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 植竹 康夫

※なお、記事内の「図表」と「注釈」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。