日本はトランプ米大統領の要求に応じ、防衛費を増やしている。インド太平洋地域で米国の影響力が低下する中で、日本は地域の安全保障でより大きな役割を担う好機が訪れている。

新首相の高市早苗氏は、国の防衛力強化に本気で取り組む姿勢をトランプ氏に示す決意だ。故・安倍晋三元首相に近かった高市氏は、トランプ氏と個人的な信頼関係を築いた安倍氏と同様の関係構築を目指している。

来日したトランプ氏との首脳会談を控え、高市氏は防衛関連費を国内総生産(GDP)比2%に引き上げると表明。当初計画より2年前倒しとなる。政府は防衛装備輸出の制限緩和や防衛分野への投資加速も進める方針だ。

トランプ政権は欧州の同盟国にGDP比5%の国防支出を求めており、アジアのパートナーである日本と韓国、台湾にも同様の要求をしている。日本は先手を打つことで、受け身ではなく能動的な姿勢を示した格好だ。高市氏とトランプ氏は、中国の造船業支配に対抗するため、造船力強化に関する協定にも署名する見通しだ。

日本は自国周辺でも深刻な安全保障上の課題に直面している。2025年版防衛白書によると、中国の軍近代化が加速し、中国人民解放軍は台湾周辺での演習を増やしている。北朝鮮軍の能力も高度化が進み、ロシアのウクライナ侵攻も日本の安全保障にとって懸念材料であり続けている。

S・ラジャラトナム国際研究院(シンガポール)のアソシエートリサーチフェロー、サラ・ソー氏は、こうした状況が日本に防衛力強化と防衛産業の再活性化を促していると指摘し、「包括的に進めるには、日本に今欠けている政治的安定が必要だ」と筆者に語った。

高市氏は厳しい政治的試練に直面している。日本初の女性首相であり、脆弱(ぜいじゃく)な連立政権を率いる。高市氏のタカ派的スタンスはワシントンで歓迎される一方、北京では反発を招き得る。公約実現には野党の協力が不可欠だ。

日本の平和憲法を巡る議論は続くが、世論は変化しつつある。読売新聞の24年調査では、回答者の84%が日本の安全保障は脅かされていると感じ、71%が防衛力強化に賛成した。

就任間もない高市氏だが、早くも一定の成果が見えている。日本経済新聞の世論調査では内閣支持率が74%に達した。

しかし成否はトランプ氏への対応にかかっている。同氏はマレーシアでの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議を終えて日本入りした。

トランプ氏はアジア各国との貿易協定をまとめ、タイとカンボジアの和平合意の調印式にも立ち会った(どこまで実質的な和平かは疑問視されている)。さらに、週内に予定される中国の習近平国家主席との会談を前に、米中間の協定に関する細かい調整も終えたとされる。

一方で、米国への信頼は低下している。読売新聞が今年6月に実施した年次調査によると、米国を「大いに」もしくは「多少は」信頼していると答えた割合は計22%と、2000年の調査開始以来最低を記録。朝日新聞の調査でも、米国が有事に日本を防衛すると考える人は23%にとどまり、77%が守らないと回答した。

このため日本は内外で取り組みを強化し、サイバー防衛や電子戦といった分野への投資を含め、兵器やミサイルを超えた戦略を考える必要がある。自衛隊は深刻な人員不足に直面しており、23年の採用は約1万人と、募集した約2万人の半分にとどまった。

日本が直面する最大の防衛課題は中国だ。日本政府は東シナ海の尖閣諸島周辺で中国公船の活動が常態化していることを懸念している。米国任せにせず、日本主導での演習を実施する方が効果的とみられる。

また、同様の懸念を共有する他のパートナーとの連携強化も有効だ。日本はすでにオーストラリア、韓国、インド、フィリピンなどへの支援を進めており、これらの国々と共に中国の影響力に対抗する取り組みを深めることができる。

高市氏は、トランプ氏が習氏との取引を優先して中国に融和的な姿勢を取るのではないかという懸念を踏まえ、台湾問題に対する米国の立場を明確にするよう促す可能性がある。米国のリーダーシップに長年依存してきた地域で、日本は堅実なかじ取りを示す好機を迎えている。この機会を逃すべきではない。

(カリシュマ・バスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Japan Is Finally Getting Serious on Defense: Karishma Vaswani(抜粋)

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:Singapore Karishma Vaswani kvaswani6@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Ruth Pollard rpollard2@bloomberg.net

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