(ブルームバーグ):投資家の貴金属の関心が高まる中、シティグループとモルガン・スタンレーは、世界の金市場で支配的な地位にあるJPモルガン・チェースに挑戦すべく、ロンドンでの保管サービスの提供準備を進めている。
事情に詳しい匿名の関係者によると、シティグループはロンドン金市場の清算会員となるための事業設立プロセスを進めている。別の関係者によると、モルガン・スタンレーの計画は初期段階だが、現物貴金属サービスの拡大を目指し、保管と清算業務の追加を計画している。
シティとモルガン・スタンレーの広報担当者はコメントを控えた。
ロンドンは世界的な金取引の拠点で、1兆ドル(約153兆円)以上の金が保管されている。清算会員は、貴金属の受け渡しや契約決済を行う保管庫を提供する重要な役割を担う。だが近年、商品取引から撤退する企業や、保管庫運営コストを負担できない企業が増え、清算会員はわずか4行に減少している。
JPモルガンは近年、ロンドン金市場で支配力を強めてきた。同行は貴金属分野で長年最大手で、事情に詳しい関係者によると、ロンドンにおける上場投資信託(ETF)の金の大半を保管しており、イングランド銀行(英中央銀行)を除いた保有分でも大きなシェアを占める。
今年は金価格が急騰し、従来ニッチ市場だった金は世界の注目を集める存在となった。商社、ヘッジファンド、ウォール街の銀行は、こぞって貴金属事業の拡大を図り、人材争奪戦を繰り広げている。この1週間で価格は若干下落したものの、年初比では引き続き50%以上高い水準にある。
ロンドン貴金属市場協会(LBMA)のルース・クロウェル最高経営責任者(CEO)は27日、京都で開催された年次総会で記者団に対し、「清算会員になることに興味を持っている銀行が相次いでいることを大変喜ばしく思う」と述べた。関心を示している銀行の名は、明らかにしなかった。
金地金の保管という物理的な業務を取り扱う清算銀行の数は、ここ数十年間で減少している。ロスチャイルド、ドイツ銀行、ノバスコシア銀行、バークレイズなどの金融機関は全て、2000年以降にこの業務から撤退した。金の清算銀行として最後に承認されたのは、2016年のICBCスタンダード銀行で、バークレイズの2000トン収容の保管庫を買い取った。
ロンドンではJPモルガンに加え、HSBCホールディングス、UBSグループ、ICBCスタンダード銀行が、金・銀市場の現在の清算会員を構成している。イングランド銀行も、主に他の中央銀行向けに保管サービスを提供している。
好機
今年、トランプ米大統領が金に関税を課すとの懸念から、金を米国へ急いで輸送する動きがロンドン金市場を圧迫した。イングランド銀行から金を引き出すための行列ができ、ロンドンで即座に入手できる金の入手は困難になった。同様に、銀市場でも大規模なひっ迫が見られた。
関係者らは、資産運用部門が大きな銀行でも、顧客の金をライバル行に送るのではなく、自ら保管できることにチャンスを見いだしていると指摘する。
保管庫からの収益は、通常、保管されている金の価値に連動して計算されるが、年初から価格が約55%急騰したため、この収益も急上昇している。
ただ、保管庫の運営や専門の貴金属物流会社への委託はコストがかかり、収益が保証されるわけではない。クロウェル氏は「投資面での大きな負担だ」としたうえで、それでも「交渉が順調に進めば」、来年中に清算参加会員が増えるはずだと語った。
原題:JPMorgan’s Grip on London Gold Vaults Challenged by Rival Banks(抜粋)
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