日本のコンビニエンスストアでは、あつあつのフライドチキンや季節限定のお菓子、アルコールさえ手軽に買える。公共料金の支払いや小包の発送、さらには下着の購入まで可能だ。

しかし、新たな競争相手が現れた。24時間営業でもなければ、スキー場へスノーボードを送るサービスもない。それでも「セブン-イレブン」の牙城を脅かしている。

それが、イオン傘下の「まいばすけっと」だ。コンビニほどの店舗面積ながら、スーパー並みの品ぞろえを持つ小型店舗チェーンで、首都圏を中心に急成長している。

売上高は過去10年で3倍に拡大し、店舗数も倍増。イオンは出店を加速し、2030年までにさらに倍に増やす計画を掲げている。しかも利益率は他の小売店より高く、イオングループ全体の約1万8000店舗のうちわずか一部に過ぎないが、昨年度は利益の約2割を稼ぎ出した。

イオンは世界的にはあまり注目されていない大企業の一つだ。年間売上高は10兆円を超え、IBMやユニリーバ、ファイザーよりも多い。

年商10兆円超の日本企業は十数社しかないが、イオンの昨年度純利益はわずか約288億円で、利益率は0.28%。小売業はもともと低収益だが、これは極端と言える水準だ。

それでも投資家は気にしていない。今月発表された6-8月(第2四半期)決算が好調だったことを受け、株価は25%上昇。特に、まいばすけっとの業績が際立った。

イオンの時価総額は初めてセブン-イレブンを展開するセブン&アイ・ホールディングスを上回り、株価収益率(PER)は天井知らずの水準に達している。

3つの要因

イオンの源流は米国の独立以前にさかのぼる。1758年に現在の三重県で創業した岡田屋をルーツとし、第2次世界大戦後に周辺店舗を統合して成長。

以降、半独立的に事業を展開するいわば「連邦制」モデルを採用し、次々と企業を傘下に収めてきた。現在は300社以上の子会社を抱え、そのうち十数社が上場している。

それでも日本の小売市場は極めて細分化されており、イオンのシェアはわずか10%だ。消費者が鮮度や地域の特色を重視し、安価な人件費によって地方スーパーが自前の生鮮加工を維持できた時代は、大手がスケールを背景にした力を発揮するのが難しかった。

ウォルマートやテスコ、カルフールといった世界的チェーンも、日本市場の攻略に失敗している。

しかし人手不足が深刻化する今、その構図が変わりつつある。イオンは複雑な組織の統合を進めており、この変化を最も生かせる立場にある。株式分割と株主優待制度による割引特典もあって、個人投資家からの人気も高い。

その先頭に立つのが、まいばすけっとだ。小型スーパーの試みは過去にもあったが、ここまで成功した例は少ない。閉店したコンビニ跡地を活用するケースも多い一方で、生鮮食品を含めスーパーに近い品々をそろえている。

セブン-イレブンが何でもそろうとアピールし成功したのに対し、まいばすけっとは基本に徹することで支持を得ている。

コーヒーマシンの清掃やフライドチキンの調理といった手間が不要で、少人数での運営が可能な上、新規採用者も数時間で戦力になる。イオンの豊富なプライベートブランド商品を仕入れてコストを抑えている。

筆者の近所にも最近まいばすけっとがオープンし、数週間で買い物習慣が変わった(道路向かいにあるセブン-イレブンに行かなくなり、結果的に食生活も健康的になった)。

まいばすけっとの成長を支える要因は3つある。

第一に、人口密度の上昇だ。首都圏では依然として人口が増えており、老朽化したマンションの建て替えで居住者数の多い新しい建物が次々と建っている。

第二に、コンビニ業界の成長が頭打ちになりつつあること。過去にも「ピーク到来」との指摘はあったが、この10年ほど店舗数は横ばいで、新しい成長の柱を打ち出せていない。揚げ物やコーヒー、スイーツなどの拡充を経ても、次の一手を欠いている。筆者は今でも、セブン-イレブンが100円の生ビール提供計画を2018年に撤回したことを残念に思っている。

第三に、インフレだ。物価下落期には消費者が気軽に買い物を楽しめたが、今は財布のひもを締めざるを得ない。まいばすけっと最大の強みは、常に価格が手頃で、意図的に「安さ」を打ち出している点にある。

まいばすけっとは、訪日観光客やSNS映えを期待する消費者を引きつける存在にはならないかもしれないが、地元の消費者と投資家はコンビニとの差別化をしっかりと受け止めている。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:This Sleeping Retail Giant Has a ‘Conbini’ Killer: Gearoid Reidy(抜粋)

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:東京 リーディー・ガロウド greidy1@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Andreea Papuc apapuc1@bloomberg.net

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