世界で6兆3000億ドル(約960兆円)規模に達するウェルネス(健康・心身ケア)産業の中で、女性向けは比較的参入しやすい分野とされる。それにもかかわらず、女性のウェルネスは長年にわたり十分な投資も支援も受けてこなかった。米国では1993年まで臨床試験に女性の参加がほとんどなく、2020年時点でも、世界の研究開発費に女性の健康分野が占める割合はわずか5%にとどまった。

ウェルネス産業を追跡する最大の調査機関グローバル・ウェルネス・インスティテュートの担当者でさえ、女性が何を必要としているのかについてのデータを十分に収集してこなかったことを認めている。

そうした中、1979年に創業した米国のウェルネスリトリート(滞在型の健康施設)の老舗「キャニオン・ランチ」が新たな一歩を踏み出す。同社は2026年9月、テキサス州オースティン郊外に女性の健康に軸足を置いた新施設を開設する計画だ。

同社が運営するマサチューセッツ州レノックスとアリゾナ州ツーソンの既存リゾートでは、宿泊客の3分の2を女性が占めるという。一方で、女性は「一般的な医療の枠組みの中で誤解され、埋もれている」とマーク・リバーズ最高経営責任者(CEO)は指摘する。

従来のスパ産業はリラクゼーションや美容、ヨガ、ブートキャンプなどに偏り、女性が真に関心を寄せる重要な領域を見落としてきた。つまり、人生の各段階で直面する生理的変化だ。

こうした「空白」を埋める動きが近年加速している。更年期症状として知られるほてりや脱毛といった話題はこれまで、公の場で語られることは少なかった。ましてや、それを看板に掲げる例はほとんどなかった。しかし最近では、更年期やその前段階の症状がトーク番組の話題となり、ベストセラー書籍のテーマにもなっている。オプラ・ウィンフリーやドリュー・バリモアなどの著名人が、これまで「体の変わり目」とぼんやり表現されてきた女性の人生の一時期について、率直に語るようになっている。

2030年までに、更年期および閉経後の女性人口は現在より9%増えて12億人に達すると予測されている。関連市場規模は244億ドル(3兆7000億円)に拡大する見通しだ。スパ業界は、この成長著しい市場に対応しなければ取り残されかねない。実際、メキシコやスペイン、インド、タイなどのウェルネス施設の先駆け的存在も、近年は妊娠・出産や骨盤のゆるみ、尿失禁などに対応するプログラムを導入している。

「男女間の健康格差、とりわけ女性ホルモンや健康に関する継続的なデータの不足に対する意識の高まりが、長らく避けられてきた対話をようやく日常のものにしつつある」。 こう語るのは、シックス・センシズ・ホテルズ・リゾーツ・スパのウェルネス部門責任者、アンナ・ビュースタム氏だ。同社は今年に入り、女性の健康を専門とするミンディ・ペルツ医師と連携し、女性向けウェルネスの試験プログラムを導入した。

ビュースタム氏は「率直に言えば、これまでのウェルネス業界は減量や美容など、見た目に偏ってきた。しかし、女性が本当に求めているのは、見た目の美しさではなく心身の健やかさだ」と語った。

キャニオン・ランチのリバーズCEOは、同社のリゾートが「業界で初めて、女性のウェルネスに特化した施設になる」と強調する。その象徴が、テキサス州オースティン郊外での5億ドル規模の大型投資だ。

「女性は医療の世界で十分な扱いを受けてこなかったが、ウェルネス分野においても同様に軽視されてきたと感じる」と語るのは、グローバル・ウェルネス・インスティテュートの調査責任者ベス・マグローティ氏だ。

同氏はキャニオン・ランチの取り組みを先進的だと評価する。「更年期向けのプログラムは急増したが、その多くはリラクゼーションやコミュニティづくり、あるいは著名人の名を冠したサプリメントに偏っている。キャニオン・ランチはそこに医療的要素を加えようとしている点で異なる」と述べた。

キャニオン・ランチ・オースティンは自然豊かな地域に位置し、設計は著名な建築設計事務所レイク・フラトーが手がけた。客室141室とレジデンス134戸のほか、ラケットスポーツ用コート6面、プール2カ所、屋外グリルを備えた料理スタジオなどを設ける。

敷地内のプログラムでは、30代以降の女性が直面する多様な健康課題に対応。睡眠や栄養、産後うつ、ミドルエイジ世代の美容など、幅広いテーマを扱う予定だ。男性の利用も可能で、血液検査や骨密度測定、睡眠スクリーニングなどの各種検査は、性別や年齢、健康状態に応じて推奨または実施される。

とはいえ、美容が後回しにされるわけではない。薄毛や肌の弾力といった例が示すように、美容と女性の健康は切り離せない関係にあるとリバーズ氏は語る。スパでは、これらのテーマにも包括的に対応できる体制を整えるという。

原題:Women-Focused Resorts Are Becoming the Next Big Wellness Trend (2)(抜粋)

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