トランプ米大統領は30日、中国の習近平国家主席との首脳会談に臨む。米中の競争の核心にある諸問題で包括的なディール(取引)を示唆してきたトランプ氏だが、こうした合意に今回至らなくても、短期的な成果を得ることを目指していると考えられる。

トランプ氏は会談を控え、中国による米国産大豆の購入再開、合成麻薬フェンタニルの取り締まり強化、レアアース(希土類)輸出規制強化の取りやめを条件に、中国からの輸入品に対する関税引き上げの停止措置延長を望んでいると述べた。一方で、自身が不可欠と見なす一部の貿易障壁は維持する考えを示している。

トランプ大統領(右)と習近平国家主席(2017年、北京)

トランプ氏は今週、「全ての問題で合意すると思う」と記者団に語った。大統領は24日、マレーシア、日本、韓国のアジア3カ国歴訪へ出発する予定だ。

トランプ氏はまた、実現の見通しに乏しい核兵器に関する合意の可能性に言及するとともに、ウクライナ侵攻を終わらせるようロシアのプーチン大統領に圧力をかけるため習氏を説得したい意向も示している。イスラエルとハマスの停戦に続く形で、平和仲介者としての評価を高める狙いがあると言えそうだ。

しかし、トランプ氏のディールを追求は往々にして実質よりも演出を重視する傾向がある。韓国での首脳会談で何らかの合意に至るとしても、過去数週間の脅し合いや報復的な貿易措置、厳しい言葉の応酬を一時的に緩和するのにとどまり、根本的な対立を解決する包括的な合意には程遠いだろうと、複数のアナリストはみている。

ホワイトハウスで中国問題担当のアドバイザーを務め、現在は米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)シニアフェローのヘンリエッタ・レビン氏は「双方とも明らかに関係の安定を求めている」とした上で、「どちらの条件で安定を図るのかは依然、不透明であり、残念ながら主導権は中国側が握っていると思う」と指摘した。

トランプ氏は自身が勝利として掲げられる成果を切望するあまり、先端半導体へのアクセスや台湾の地位など、中国側の主要な要求を受け入れるリスクもある。同氏がこうした譲歩の可能性を明確に否定していない点も注目される。

もっとも、国家安全保障や国内政治のリスクを踏まえれば、これらの問題で大幅な譲歩をする可能性は低い。このため、市場が貿易戦争の回避を確信できるような包括的合意が成立する見込みは小さいとも考えられる。米中の現行の関税引き上げ停止措置は11月に期限を迎える。

このほか、交渉スタイルも両首脳で根本的に異なる。トランプ氏は短期的な成果を狙い、影響力を駆使して取引型のアプローチを取ることが多いのに対し、習氏は自国の製造業と天然資源面での優位を背景に、長期的な視野に立った戦略を取る傾向がある。

携帯電話や半導体などに使われるレアアースの世界最大の供給国・加工国として、中国が輸出規制強化を打ち出している点について、こうした措置を撤回するようトランプ氏は強く求めている。

一方、習氏はレアアース分野での支配的地位を戦略上の重要な優位性と見なしており、米国側の大幅な譲歩がない限り、方針を見直す可能性は低いと想定される。

清華大学戦略・安全研究センターの孫成昊研究員は、中国の影響力は「単なる交渉カード」ではないため、同国がトランプ氏の要求に応じるのはほぼ不可能だと分析。「こうした政策を転換するには、米国が自国のハイテク制裁を撤回するなど、極めて大きな譲歩が必要になるが、ワシントンの現状では政治的に実現不可能だ」との見方を示した。

実際、米政府は米国製ソフトウエアを搭載する機器の対中輸出制限を一段と強化するなど、逆方向の措置を検討している。これにより、コンピューターやエンジンなど幅広い製品の輸出が制限対象となる可能性がある。

タカ派の懸念

こうした展開はアジア各国の経済的リスクを高めている。中国の台頭を抑える上で重要な米国の同盟国と見なされながらも、トランプ氏の関税措置の対象となっている国もある。

米国の対中強硬派の一部は、トランプ氏の取引志向や、米国産品購入合意や貿易上の勝利を得ようとする姿勢が、安全保障面で従来は考えられなかったような譲歩を招く恐れがあると懸念している。米国が長年維持してきた台湾に対する戦略的曖昧さの政策を転換する可能性も指摘されている。

中国側は米政権に対し、台湾独立に「反対する」と公式に表明するよう求めており、トランプ氏も今週、首脳会談で台湾問題が議題に上る可能性を認めている。

米ブルッキングズ研究所のグローバル・チャイナ・プロジェクトの共同責任者、パトリシア・キム氏は「トランプ大統領は台湾に関して従来型の見解を持っておらず、特に歴代大統領と比べると支持が明らかに手ぬるい」と述べ、中国側はこれについて「トランプ氏が何らかの見返りを得られるなら取引に応じるか、譲歩する余地がある分野と見なす可能性がある」とコメントした。

緊張再燃

最新の緊張激化の発端を巡っては、米中の主張が対立している。米国側は、中国が新たに導入した大幅な輸出規制が原因だと主張。中国側は、米国が制裁対象を拡大してブラックリスト入り企業の子会社まで含め、約束を破ったと反論している。

その後、両国は報復措置と新たな貿易面の威嚇を次々と打ち出している。中国は韓国造船大手ハンファオーシャンの米関連企業5社への制裁を発表。米国による中国海運・造船業界の調査への対抗措置だとしている。トランプ氏は中国産品への追加関税100%賦課や、中国からの使用済み食用油の輸入制限を検討していると警告した。

今回の貿易摩擦は、両国がどこまで経済的痛みに耐えられるかを試す展開となっている。関税の影響で米国の消費財価格は上昇し、中国は最大の輸出市場へのアクセスが制約されている。トランプ氏は先週、自身が脅しの材料としてきた関税について「持続可能ではない」と認めた。

それでも、中国の方が米国市場を一段と必要としていることから、トランプ氏の方に経済的な優位があると、米ヘリテージ財団のスティーブ・イェーツ上級研究員は指摘する。同氏は「中国は自らの痛みと混乱への耐性を過大評価した可能性がある」と論じた。

他のディール

トランプ氏の今回の歴訪では習氏との会談に最も注目が集まっているものの、韓国、インド、ブラジルとの通商交渉も行方が不透明なままだ。日本が米国との交渉で約束した5500億ドル(約84兆円)規模の米国向け投資基金も詳細条件は詰め切れておらず、高市早苗新首相にとって試金石となる可能性がある。

同様に、トランプ氏と韓国の李在明大統領が、米国への3500億ドル投資を含む広範な貿易枠組みで最終合意できるかも不透明だ。事情に詳しい関係者の話では、ベトナム、インドネシア、フィリピンとは通商協定の署名は予定されていないという。

米保守系シンクタンク、ハドソン研究所の日本担当アナリスト、ウィリアム・チョウ氏は、米国の同盟国との合意を固めることが、トランプ氏の対中交渉力を高めると指摘する。「目標が引き続き中国側との実効的な合意の締結であるなら、可能な限りレバレッジを強化するべきだ」と語った。

原題:Trump Seeks Elusive Trade Deal With Xi in High-Stakes Meeting(抜粋)

--取材協力:Colum Murphy、Ramsey Al-Rikabi.

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