自動車メーカーは、新たな半導体供給混乱の可能性に身構えている。オランダの無名サプライヤー、ネクスペリアに対する中国の報復的な輸出規制により、生産ライン停止につながる連鎖反応が起きかねないためだ。

事情に詳しい複数の関係者の話では、欧州のメーカーは1カ月以内に影響が出かねないと懸念し、緊急会合を開いて対応策を協議しているという。

業界は新型コロナウイルス流行時の半導体不足を教訓に在庫を積み増してきた。しかし、複数の関係者の話では、フォルクスワーゲン(VW)などの自動車メーカーやロバート・ボッシュなどのサプライヤーが、ネクスペリアから他の供給元に切り替えるには数カ月を要する可能性がある。

ドイツ電気・電子工業連盟(ZVEI)のヴォルフガング・ウェーバー会長は「政治レベルで速やかに解決されなければ、世界の自動車生産の大部分と他の多くの産業分野で稼働停止が起きる恐れがある」と警告した。

中国の習近平国家主席とトランプ米大統領は通商合意の締結に向け、月内に会談を予定している。だが、米国が追加関税を打ち出す一方、中国は自動車や兵器産業に不可欠なレアアース(希土類)の輸出規制を導入するなど、報復の応酬で米中間の緊張が高まっている。

ネクスペリアの工場で半導体ウエハーを移動させるロボットアーム

中国政府は今月に入り、自国企業の傘下にあるネクスペリアに対し、国内工場からの製品輸出を禁じた。オランダ政府が冷戦時代に制定された法律を発動して同社を接収したことへの報復とみられる。この法律は非常時に重要な物資へのアクセスを確保するために定められた。

ネクスペリアの親会社である中国の電子通信機器メーカー、聞泰科技(ウィングテック・テクノロジー)は、昨年終盤に米国の輸出規制対象リストに追加されていた。

こうした動きにより、次世代技術の主導権を巡る競争はさらに激化しそうだ。中国政府は、欧州連合(EU)の中国製電気自動車(EV)に対する関税賦課に反発し、EVおよび電池の輸出規制を強化した。中国のEV産業は政府の強力な支援を背景に、技術面で優位を築いてきた。

ネクスペリアの半導体は最先端とは見なされないものの、スイッチ操作やハンドル制御などに使われる半導体を供給しており、自動車サプライチェーンの重要な一角を占める。ネクスペリアの昨年の売上高は20億6000万ドル(約3100億円)で、その60%超が自動車産業向けだった。

すでに他の供給元を探す動きも出ている。関係者によると、ドイツの半導体メーカーで自動車業界への主要サプライヤーの1社でもあるインフィニオン・テクノロジーズには、ネクスペリアの顧客から代替供給の問い合わせが相次いでいるという。

ブルームバーグ・ニュースが確認した書簡によると、ネクスペリアは顧客や取引先に対し、中国の輸出規制は不可抗力条項に該当し、契約上の義務から免責されると通知した。同社は14日、中国当局と輸出規制対象からの除外について協議中だと説明したが、それ以上のコメントは控えている。

欧州最大の自動車メーカーであるVWは、主要サプライヤーとその部品群への影響を調査するタスクフォースを設置した。ネクスペリア製半導体を直接には調達してはいないが、一部が車載部品に組み込まれている可能性があるとしている。

同社は「現時点で生産は影響を受けていない」ものの、「潜在的リスクを早期に特定し、必要な対応策を決定する」方針を示した。

欧州自動車工業会(ACEA)によれば、ネクスペリア製半導体の在庫はわずか数週間分にとどまる見込みで、在庫が尽きれば生産停止につながる恐れがある。

ACEAのデヴリーズ事務局長は「われわれは突如として極めて憂慮すべき状況に見舞われている。関係各国からの迅速かつ現実的な解決策が必要だ」と訴えた。

原題:Carmakers Push to Secure Chips as China Trade Spat Escalates (1)(抜粋)

--取材協力:Sarah Jacob、Dasha Afanasieva、Amy Thomson、Albertina Torsoli.

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