(ブルームバーグ):中国がレアアース(希土類)輸出に対して大がかりな新たな規制を導入し、自国が支配する重要鉱物の世界的な流通を初めて本格的に統制しようとしている。米国が世界で金融支配力を駆使するやり方をまねている。
先週発表された新ルールでは、中国産の特定レアアースが微量でも含まれる製品を海外企業が輸出する場合、中国政府の事前承認が必要となる。
国外取引にも及ぶこの規制により、戦闘機から電気自動車(EV)に至る幅広い産業に不可欠な素材を巡るサプライチェーンをコントロールしようとする中国の意図が浮き彫りとなっている。
ギャブカル・リサーチのアーサー・クローバー、ライラ・カワジャ両氏は13日のリポートで、「数十年にわたる努力の末、中国はようやく米国に対して幾つかの実質的な技術的優位を得た」と指摘した。
中国の動きは米国だけでなく、欧州連合(EU)にも波紋を広げている。EUの議長国を現在務めるデンマークのラスムセン外相は14日、EUは「厳しい対応を取るべきだ」と述べた。
国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会のためワシントン入りしているEUの行政執行機関、欧州委員会のドムブロフスキス委員(経済担当)は、中国が「貿易上の相互依存関係を政治的利益のために利用している」と非難した。
対策
新たなレアアース規制が実際にもたらす影響は適用範囲の広さ次第だが、すでに各国の政府や企業の間では対抗措置や代替供給網を探る動きが活発化している。
ベッセント米財務長官は13日、「この輸出規制と監視を容認するつもりはない。彼らは自由世界全体のサプライチェーンと産業基盤にバズーカ砲を向けている」とFOXビジネスとのインタビューで述べた。
ベッセント氏は欧州やインド、日本や韓国などアジアの民主主義国と連携を進める意向も示した。ドムブロフスキス氏も今週ワシントンで開かれるとみられる主要7カ国(G7)会合で協議が行われるとの見方を示した。
一方、関税引き上げ以外でも報復的な保護主義措置が続いている。中国は14日、韓国の海運大手ハンファオーシャンの米子会社5社に制裁を科すと発表。一方、EUは中国企業が欧州市場で事業を行う際、欧州企業への技術移転を義務付ける案を検討している。
中国にとってはリスクもはらむ。レアアース規制が過度に強硬になると、各国が代替供給網の構築を加速させ、中国の長期的支配力を損ないかねない。これは、米国の先端半導体輸出規制が結果的に中国の技術革新を促した構図と似ている。
14日にはオーストラリアでレアアース関連鉱山企業の株価が急騰した。レゾリューション・ミネラルズは56%高、ノバ・ミネラルズが16%高で取引を終えた。
インドでは、自動車メーカーや部品サプライヤーが、従来の重希土類磁石に代わる安全保障上リスクの少ないフェライト磁石の試験を加速しているという。事情に詳しい関係者によると、12月までは既存在庫で対応可能な見通しだ。
「チョークポイント」
中国が今回講じた措置は、習近平国家主席が米国の手法を応用し、自国が優位に立つ産業を外交・安全保障上の武器として活用する戦略と言える。
米国がドル覇権を通じて域外に制裁を及ぼす力を確保しているのに対し、中国はレアアース精製と永久磁石製造を通じた支配力を用いて同様の影響力を行使し始めた。
「米国はドルの影響力と金融システムの中心的地位によって比類なき市場支配力を持つ。一方、中国は世界の製造業に不可欠な主要産業を支配することでグローバルな影響力を握っている」とブルームバーグ・エコノミクス(BE)の地経学担当シニアアナリスト、クリス・ケネディ氏は言う。
中国が新たに制限対象としたレアアースは、ホルミウムとユーロピウム、イッテルビウム、ツリウム、エルビウムの5つ。4月に発表された当初の7種(サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、イットリウム、スカンジウム)に加わるもので、磁石製造の代替はさらに難しくなる。
短期的な代替手段は限られる。中国は世界のレアアース採掘の70%、レアアースによる永久磁石製造の90%以上を握っている。過去の輸出規制時には欧米企業が供給不足や生産停止に追い込まれた例もあり、代替供給能力の構築には数年を要する。
規制が厳格に運用されれば、中国技術由来の「チョークポイント」となり、高性能の磁石を使うほぼすべての産業に影響が及ぶ。今回の規制対象は原材料だけでなく、中国産レアアースを0.1%でも含む完成品も含まれる。
中国商務省は国家安全保障上の理由を挙げ、中・重希土類が軍事用途で重要だと説明した上で、輸出を全面的に禁止するものではなく、規制要件を満たす申請は承認するとしている。
そうした説明のいかんにかかわらず、世界的なレアアース流通を牛耳ろうとする中国の姿勢は、政府系の有力シンクタンク中国社会科学院の研究員による13日の論評に如実に表れている。
中国は供給国から「レアアース秩序の統治者」へと立場を転換しつつあり、こうした措置はレアアースの軍事利用を防ぎ、国際社会全体の共通利益に資するものだと汪子洋アシスタントリサーチフェローは主張した。
原題:China’s Rare Earth ‘Bazooka’ Sparks Alarm, Race for Supplies (1)(抜粋)
--取材協力:Josh Xiao、Martin Ritchie、Jing Li、Fran Wang、Lucille Liu.
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