米企業の取締役会はかつてなく多様化している。ただ同時に、現在は白人男性の登用が過去10年近くで最も速いペースで進んでいる。

調査会社ISSコーポレートのデータによると、S&P500種株価指数構成企業で今年新たに就任した取締役の過半を白人男性が占めた。これは2017年以来のことだ。

企業幹部や人材紹介会社へのインタビューでは、取締役会は経済や政治の混乱、とりわけ関税問題に対応するため、最高経営責任者(CEO)の経験を持つ人材を求めていることが明らかになった。しかし、そうした経営者の多くは多様性が乏しかった数十年前にキャリアを始めており、その結果、現在選ばれている人材の多くが白人かつ男性に偏っている。

また多様性・公平性・包摂性(DEI)施策に対するトランプ政権の反発を背景に、取締役会の多様化に向けた取り組みの優先順位は低下している。

幹部人材の紹介会社ボイデンのマネジングパートナー、ロバート・トラビス氏は「5年前には著しく過小評価されていた『男性、年配、白人』という候補者が、今や他のあらゆる候補と並んで真剣に検討されている」と述べた。

新型コロナのパンデミック(世界的大流行)期以降、企業の取締役会は多様性を強化し、デジタルや人事分野での専門性を高めようとしてきた。こうした分野は候補者層が広い。一方で現在、取締役会は人材紹介会社に対し、企業や大規模事業部門を率いた経験を持つリーダーを探すよう求めており、それ以外の要素はさほど重視しないと伝えている。最も高く評価されるのは現職CEOか元CEOだ。

S&P500企業では今年、クレジットカードのアメリカン・エキスプレス(アメックス)、飲料メーカーのキューリグ・ドクターペッパー、ビールのモルソン・クアーズ、スポーツ用品のナイキ、宅配のユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)などが現職または元CEOを取締役会に迎えた。

ISSコーポレートの調査では、今年9月24日までにS&P500企業の取締役会に新たに任命された440人超のうち、約55%が白人男性だった。女性の割合は約3分の1にとどまり、ピークだった2022年の44%から低下した。非白人は20%と、2021年の44%から大きく下がった。

別の調査会社エクイラーの調査によれば、中小型株も含むラッセル3000指数構成企業では、S&P500企業に先行して2023年に白人男性を取締役に登用する動きが強まっていた。

 

取材に応じた人材紹介会社や企業幹部の話では、トランプ政権による反DEI姿勢が直接的に取締役人事を左右しているわけではないが、雰囲気が変わったのは間違いないという。例えば今年、ゴールドマン・サックス・グループは、白人男性だけで取締役会を構成する企業とは新規株式公開(IPO)の業務は手掛けないとしていた方針を撤回した。

現在の経営環境のニーズを満たす幹部を取締役会に迎えようとすると、多くの場合は白人男性を選ぶことになると、全米企業取締役協会(NACD)ニューイングランド支部のディレクターを務めるエレン・ゼイン氏は語る。

複数の上場企業で取締役を務め、ボストン・サイエンティフィックのガバナンス委員会にも所属する同氏は「多様性目標の達成に納得できなければ、企業に断固厳しい評価を下す大口株主も存在していた。しかし状況は突如として一変した」と述べた。

原題:White Men Are Making a Comeback in American Corporate Boardrooms(抜粋)

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