25日から開催される東京ゲームショウ(TGS)に向けてゲームファンの期待と興奮は高まっている。一方で、お祭り気分もゲーム開発者らにとってはどこか人ごとのようにも映る。新型コロナウイルス禍を契機に人々のゲームの購入やプレイ方法といった行動の変化が加速。業界はその対応にいまだ苦慮している。

スマートフォンアプリへの支出は増加傾向にあるが、大半は既存の一部ヒット作に集中し、新しい作品が成功を収めることはこれまで以上に難しくなっている。

プレイステーション(PS)5、Xbox、パソコン(PC)でも同様の傾向が見られ、エーペックスレジェンズやフォートナイトのような継続的にコンテンツを追加するライブサービス型の大ヒットゲームが、限られたハードの容量やプレーヤーの時間を独占している。

各社は運営中のタイトルや開発中のゲームの数を削減。それが業界全体の投資や雇用といった景況感にも影響を与えている。

スイッチ2

苦境が続く中、ゲーム開発者らは任天堂のスイッチ2がこの逆風を打破してくれることを期待していた。新たなハードの発売は常に業界の起爆剤となり、スイッチ2も記録的な売れ行きを見せ、好調なスタートを切った。また、任天堂のゲーム機を所有するユーザー層はたくさんのソフトを購入する傾向がある。だが、こうした好影響はまだ出ていないと開発者らは言う。

任天堂の自社開発タイトルが大ヒットとなる一方、外部ゲーム開発会社にはまだその恩恵が波及していない。課題の一つが、パッケージ版製品の種類だ。任天堂はこれまで、外部ゲーム会社に対しゲームカードの容量を複数用意していた。開発者はそれぞれのソフトに最適なサイズを選べ、製造コストを抑えることができた。

しかし、スイッチ2では開発者の選択肢は2つしかないと、事情に詳しい複数の関係者が非公開情報であることを理由に匿名を条件に語った。それは、最大容量で最も高価な64ギガバイト(GB)のカードか、安価だがゲーマーから不評なキーカードのどちらかだという。

ユーザーの間では、不満の声が上がっている。複数のゲームを切り替える際に、ストレージの容量を増やすか、その都度ゲームの削除・再ダウンロードを繰り返す必要があるからだ。特に携帯型ゲーム機では、パッケージ版ゲームは購入したらすぐに遊べるものという期待が長らくあった。

中途半端

モーニングスターのアナリスト伊藤和典氏はキーカードについて「パッケージ版とダウンロード版の欠点を併せ持つというか、位置付けとしては中途半端」と指摘した。

スイッチ2上でゲームを売りたいクリエイターにとって、どのような影響を及ぼすのか。マーベラスのデモンエクスマキナ タイタニックサイオンの販売実績が参考になる例を示している。同ゲームはスイッチ2、PS5など複数のコンソール向けに発売されている。

英国では、通常の物理カートリッジ版として発売され、購入後すぐに遊ぶことができる。ニールセンIQの調査によると、英国でのパッケージ版売り上げの72%がスイッチ2版だった。だが日本では、キーカードとして販売され、結果は逆転した。ファミ通によれば、スイッチ2向けは40%にとどまった。

不評ではあるが、キーカードはゲーム価格高騰に対する打開策と任天堂は見ている。今後、ゲーム容量が急速に拡大したとしても、パッケージ版を手頃な価格に維持できるからだ。PS5やXboxタイトルで採用されているディスク媒体よりも任天堂が使用するフラッシュメモリーはコストが高い。大作ゲームともなると必要とするデータ量は数百GBに上り、その全データを保存できる従来型のゲームカードは、現行標準価格の70ドル前後に比べて10-20ドル、あるいはそれ以上高くなってしまう。

株主も指摘

ゲームによっては大きな容量を必要としないものもあるとして、外部のゲーム販売会社は、容量の小さいカートリッジの提供再開を望んでいる。任天堂が選択肢を廃止した理由は明らかになっていない。

最近の株主総会では株主が、キーカードが外部開発者をスイッチ2から遠ざける可能性があると経営陣の前で指摘した。同社の広報担当者はコメントを控えた。

新しいソフトの販売を伸ばすという広範な課題を考えると、ゲーム開発会社は開発品目の拡大に慎重になっている。スイッチ2は多くの人が期待したほどの起爆剤にはなっておらず、ある外部ゲーム販売会社は、任天堂が外部ゲーム開発者の扱いを改善しない限り、開発者がスイッチ2で成功するのは難しいと言う。

伊藤氏は「スイッチ2でユーザーベースを拡大させるためにはサードパーティーにとって魅力的なハードになる必要があり、気になる兆候だ」と語った。

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