日本銀行は19日の金融政策決定会合で、保有する上場投資信託(ETF)の売却を決めた。バランスシートを含めた金融政策正常化に向けた植田和男総裁の強い意志を示した形で、1月会合以来の利上げ再開も視野に入ってきた。

植田総裁は記者会見で保有ETFについて、2024年3月に17年ぶりの利上げと同時に新規購入を終了して以降、「処分のあり方を検討してきた」と説明した。既に国債買い入れは着実に金額を減らしており、中央銀行としては異例の政策手段だったETF購入の出口戦略が大きな課題として残されていた。

記者会見する植田和男日銀総裁

大規模緩和の負の遺産とされ、時価が3月末時点で約70兆円に膨らんでいた保有ETFの売却に踏み出すことで、植田体制の下で政策正常化が一段と進むことになる。これまで植田総裁が「時間をかけて検討する」と繰り返してきたETFの売却が突如として議題になり、全員一致で決まったことは象徴的と言える。

今会合では、米関税政策による不確実性の強まりを受けて一時休止となっている政策金利の正常化にも重要な動きが見られた。5会合連続で金融政策の維持を決めたが、9人の政策委員のうち高田創、田村直樹の2人の審議委員が据え置きに反対し、0.75%程度への利上げを提案した。

10月利上げ

高田氏は2%の物価安定目標がおおむね達成されたとし、田村委員は物価の上振れリスクが膨らんでいると主張した。植田体制で複数の委員が利上げを主張して反対票を投じるのは初めて。会合を受けてオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場では、10月末の次回会合で利上げが実施される確率が50%台に上昇した。

伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは、2委員の利上げ提案を踏まえて「思った以上に日銀内で利上げの機運が高まっているというのが率直な印象だ」と指摘。利上げのタイミングは近いとし、10月会合での利上げの「確度がより高まったとみていい」との認識を示した。

植田総裁は会見で、両委員の提案への直接的な言及を避ける一方、政策判断で重視している基調的な物価上昇率は「2%に向けて近づきつつある」と発言した。最大のリスク要因である米関税政策の内外経済への影響も、「もう少しデータを見たい」としつつ、「最後まで見なければ分からないというわけではない」と述べた。

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、総裁発言について、10月利上げの可能性を否定するものではなかったとみる。自身は12月の利上げを想定しているが、それまでのデータでトランプ関税の影響が限定的になれば、他の政策委員も物価見通しを上方修正し、10月の利上げが決まる可能性があるという。

新政権

もっとも、10月利上げに向けたハードルは低くない。植田総裁は米関税を巡る不確実性は依然として高いと強調した。10月4日の自民党総裁選では、金融緩和を支持する高市早苗前経済安全保障担当相も有力候補の一人と目されている。衆参ともに少数与党の下で、新政権の経済政策の策定にも時間を要する可能性が大きい。

19日発表の8月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は、政府の物価高対策で伸び率が縮小したものの、日銀の目標である2%を41カ月連続で上回った。植田総裁は会見で、食品インフレが予想物価上昇率を通じた基調の押し上げを促す可能性がある一方、消費者マインドを委縮させることへの警戒感も示した。

10月会合前には1日に9月調査の日銀短観が公表され、6日に支店長会議が開催される。3日には植田総裁が大阪で講演と会見を行うほか、16日に田村氏、20日に高田氏と利上げを提案した審議委員の講演など重要なイベントが相次ぐ。市場で10月利上げに向けた機運が一段と高まるのか注目される。

--取材協力:氏兼敬子.

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