電気自動車(EV)で中国最大手のBYD(比亜迪)は過去5年間で急成長を遂げた。2024年には政府の支援や積極的な値下げ戦略、海外展開を追い風に、米テスラを抜いてEV販売で世界一になった。

しかし今、厳しい現実に直面している。今年5月以降、国内販売が縮小し、海外販売の伸びも国内の落ち込みを補うには至っていない。同時に、BYDの躍進を後押しした激しい値下げ競争に対し、デフレを警戒する中国政府は監視を強めている。

BYDのEV「SEAL」

BYDの苦境

本来なら再び大きな飛躍が期待された今年だが、むしろ20年以来で最も厳しい状況に見舞われている。5年連続で成長し続けてきたが、BYD車販売の勢いが止まっている。

中国における5-8月の納車台数は前年同期比10%減少。値引き強化や新規顧客獲得を巡り苦しんでいる。季節要因もあったが、吉利汽車や浙江零跑科技、小米(シャオミ)といった競合他社がシェアを伸ばした。

「Build Your Dreams(夢を形に)」の頭文字を社名に冠するBYDは8月、3年ぶりとなる四半期減益を報告。純利益は30%落ち込み、予想外の減益で株価は8%下落し、時価総額が60億ドル(約8850億円)余り吹き飛んだ。

失速気味のBYDは、野心的な販売目標を引き下げざるを得なくなった。25年の当初目標は550万台だったが、現在は460万台の販売を見込んでいるとロイター通信は報じている。ただしBYDはこうした発表はしていない。

一方で、中国国外では状況は比較的良好だ。積極的かつ資金を投じた海外展開により、手頃な価格と高性能を武器に新規顧客を獲得。海外市場では利益率も高く、国内の激しい競争をある程度打ち消している。ただ、欧州やメキシコを中心に、低価格な中国製EVブランドの急拡大を抑えようとする動きも広がっている。

 

規制強化

BYDは5月以降、本国の中国で規制当局の強い介入に直面している。23年初頭に始まった国内の価格競争に対し、当局は規制を強化。値引き規制により、BYDの主要な販売戦略が封じられた。

それでもBYDは垂直統合型のサプライチェーンを持ち、自社でバッテリーや半導体を製造しているため、供給網の大きな混乱を回避できている。

一方、サプライチェーン金融の規制強化により、BYDは業界の慣行を超えて納入業者への支払いを遅らせる手法を見直さざるを得なくなった。

当局は自動車メーカーに対し、仕入れ先への支払いを60日以内に行うよう義務付けた。これは23年に平均275日かけて支払っていたBYDにとって大きな転換を強いる。

投資家は懸念しているのか

BYDの時価総額が今年5月後半に1750億ドルでピークをつけて以後、規制強化と夏場の販売低迷を受けてBYD株は下落している。

長年にわたり積極的な値引きに依存してきたBYDは今、それを公然と行えなくなり、代わりに高機能を搭載した新型車の投入で値頃感を求める消費者に訴える戦略を進めている。

投資家心理は依然として弱いが、市場関係者は26年投入予定の新型車が好材料になるとみている。HSBCホールディングスの丁雨倩アナリストは今月17日のリポートで、大規模な技術アップグレードが来年の販売成長を加速させる可能性があると指摘した。

ライバル

BYDの香港上場株は3月以降、大半の国内競合に劣るパフォーマンスだ。販売規模では依然として圧倒的な首位に立っているが、少ない販売台数だった浙江零跑科技や吉利汽車、小米などが急成長している。

BYD株はテスラよりは健闘している。テスラ株は今年に入り下落基調にあり、一因としてイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が政治に踏み込み、既存・潜在顧客の一部を遠ざけたことが理由として挙げられている。

 

 

BYDが巨大ブランド化した経緯

BYDは1995年、主に携帯電話向けの電池メーカーとして創業した。2003年には経営不振に陥っていた国有自動車メーカーを買収し、自動車産業に参入した。

転機は16年だ。アウディやランボルギーニで実績を積んだデザイナー、ウォルフガング・エッガー氏ら海外の有力人材を採用。エッガー氏は従来の地味な車両デザインを一新し、ラインアップを洗練し刷新した。その上、欧米競合メーカーの同等モデルより25%安い価格でEVを提供した。

また、BYDが掲げた新エネルギー車(NEV)市場を主導するという目標は、中国政府がクリーン技術推進の一環としてEVを普及させる戦略と一致。数十億ドル規模の政府補助金がEV導入を後押しし、BYDの財務基盤を強化する一因となった。

BYDは現在、幅広い価格帯の車種を展開している。約5万5800元(約115万円)から購入できる都市走行に向いたハッチバックから、170万元のスポーツカーまでそろえている。

 

原題:Why Tesla’s Chinese Rival BYD Faces Raft of Troubles: QuickTake(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.