(ブルームバーグ):三井住友フィナンシャルグループ(FG)が証券部門の再編に乗り出す。複数の関係者によると、傘下のSMBC日興証券が米証券のジェフリーズ・ファイナンシャル・グループと新たな合弁会社を設立する方針だ。課題となっている大企業向け証券ビジネスで反転攻勢をかける。
統合が実現すれば、2010年の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と米モルガン・スタンレーによる合弁証券発足以来の日米間での大型金融再編となる。関係者によると、三井住友FGは議決権比率は変えないままジェフリーズの経済持ち分を20%まで引き上げる方針だ。ジェフリーズはすでに取締役会で追加出資受け入れなどを承認した。近く発表される見通しだ。
日本では急速に資本市場の改革が進んでおり、上場企業は資本効率の改善や企業価値の向上を急いでいる。株高など良好な市場環境も背景に、株式や債券の発行を伴う資金調達や合併・買収(M&A)助言など投資銀行ビジネスで稼ぐ絶好のチャンスとなっている。三井住友FGの新たな一手で、3メガ銀グループの競争はさらに激しくなりそうだ。

三井住友FGは個人向け取引ではスマホアプリを軸に総合金融サービス「Olive(オリーブ)」を展開する。インターネット証券大手のSBI証券との提携もあり、口座数・預金量を伸ばしている。伝統的に強い中堅・中小企業向け銀行業務でも、今年はデジタル技術を駆使して決済や資金繰りを支援する「Trunk(トランク)」のサービスを始めるなど他の2メガに先行する。
ライバルとの競争激しく
ただ、大企業を顧客とする投資銀行業務には課題がある。特に米国では他メガに比べ見劣り感も否めない。MUFGは10年にモルガンSと合弁で法人向けのモルガン・スタンレーMUFG証券を設立して以来、国内外で着々と業務を拡大。みずほフィナンシャルグループは23年にM&A助言を得意とする米グリーンヒルを買収し、海外市場で存在感を示している。
三井住友FGの中島達社長は昨年2月、ブルームバーグとのインタビューで、米国での投資銀行業務について「みずほFGとはまだ差がある」と認め、「ジェフリーズとの提携が大切だ」と強調していた。
今回、再編の核となるのはSMBC日興だ。同証券は過去にも再編を繰り返してきた。2000年代前半に三井住友FGが旧日興証券に出資した後、同証券には米シティグループも出資し、投資銀行分野で協業した時期もあった。しかし、リーマンショックの影響でシティはSMBC日興を手放し、三井住友FGが完全子会社化した。

近年では18年にSMBC日興とSMBCフレンド証券が合併するなどリテール部門を強化しているが、法人向けではシティとの提携解消により、米国をはじめ海外業務などで存在感が低下していた。ジェフリーズとの提携関係は21年に始まり、持ち分を徐々に引き上げるとともに、米国のほかアジアなどに協業の場を広げている。
米モーニングスターのアナリスト、マイケル・マクダッド氏は、三井住友FGについて、「競合する他の日本のメガバンクに比べ、法人向け証券業務が弱い」と指摘。その上で、「より緊密な連携により、その差をある程度埋める助けとなる可能性がある」と評価した。
ただ、ライバルの動きも激しい。MUFGはモルガンSと「アライアンス2.0」と銘打った提携戦略で関係の深化を図る。両社は機関投資家向けの日本株セールスやリサーチ事業の一部を統合した。みずほFGはグリーンヒル買収を機に国境をまたいだ案件獲得などに力を入れる。
人材の維持・確保が鍵に
三井住友FGの新たな合弁相手であるジェフリーズは、米国市場では株式関連やM&A助言で存在感が大きいだけに、協業の深め方次第では国際的に大きな案件への関わりや収益貢献が期待できる。しかし、国や企業文化の違いを超えた協業の枠組みづくりは容易ではない。
マクダッド氏は、証券業務は人的要素が大きく影響しやすい分野だと指摘する。金融機関の再編では、新たな枠組みで事業が始まった後にチームごと人材が流出する例も少なくない。同氏はMUFGとモルガンSの提携を好例として挙げ、「MUFGが企業文化の複雑性に十分な注意を払い慎重に動いた」ことが奏功したと分析する。
15年ぶりとなるグローバルな大型金融再編。三井住友FGの経営陣には、確実な収益効果をもたらすための手腕が問われそうだ。
--取材協力:佐野七緒.
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