現代自動車とLGエナジーソリューションが米ジョージア州で76億ドル(約1兆1200億円)を投じて建設を進めるバッテリー工場で韓国人労働者が拘束され、両国関係に大きな衝撃を与えた。しかし、近隣地域では以前から雇用や経済的機会などの恩恵から取り残されているとして不満が渦巻いていた。

ジョージア州のケンプ知事(共和党)と地元の政治家は20億ドル超の優遇措置で誘致した同工場を地域経済の起爆剤とアピールしてきた。しかし、人口の半数余りを黒人が占め、選挙で選ばれた公職者の大半が民主党員である近隣のサバンナ市では、多くの指導者がその雇用創出効果を疑問視している。

サバンナ州立大学の非常勤教授、ジャマル・トゥレ氏はこの工場プロジェクトについて、「雇用創出につながるので支持するよう言われた。しかしその後、君たちは訓練を受けていないから、他の人々を連れてこないといけないと言われた」と述べ、一般市民が恩恵を受けていないと指摘した。

移民・関税執行局(ICE)が先週行った不法移民の摘発では韓国人を中心に475人が拘束された。韓国人労働者が搭乗したチャーター機は11日に韓国に向けて出発している。

現代自動車のホセ・ムニョス最高経営責任者(CEO)はインタビューで、作業員が不足しているため、工場の建設に少なくとも2カ月の遅れが生じていると述べている。

電気自動車(EV)用バッテリーの市場はアジアの企業が支配している。各社は自国で数十年かけて開発した技術を米国に持ち込む際に合弁会社を設立して新工場を建設してきた。その過程では言語や職場文化、知的財産上の懸念からあつれきが生じることが少なくないという。デリケートな問題であること理由に、米バッテリー製造企業の幹部2人が匿名で明かした。

現代自動車の工場建設地近くに設けられた環状交差路(米ジョージア州)

工場の建設は通常、米国の建設会社が請け負う。しかし、特殊な設備を設置する際には、その設備を販売する企業の社員が一時的に米国に滞在して作業を担う。多くは韓国や日本、中国の企業が担当する。

水漏れや配管の緩みなどわずかな欠陥が生産ライン全体を汚染し、不良品の原因になるため、精緻に調整されたシステムを再現する必要があることから、こうした手順が講じられる。設備の稼働後は、地元の労働者が技術研修を受けた上で、恒久的な仕事に就くと同幹部は語った。

現代自動車のメタプラント工場(米ジョージア州)

また、韓国系部品メーカーに労働者を派遣するサバンナ市の複数の企業は、メーカー側が韓国人労働者の雇用を優先したり、韓国系の人材派遣会社と契約したりする傾向があり、コミュニティーで摩擦が起きていると証言する。

ある人材派遣会社の経営者は、約1年前にサバンナ市北西のリンコンにある現代自動車のサプライヤーに約60人の労働者を派遣したという。しかし、その後契約は打ち切られ、代わりに韓国からの労働者が雇われたと話す。これらの労働者は組み立て業務に従事し、熟練労働者であるとは通常見なされないと、この経営者は匿名で語った。

ケンプ知事は、韓国と現代自動車は州法と連邦法を順守していると評価し、今後も両者との関係を重視していく考えだ。同知事は「トランプ大統領も指摘している通り、韓国政府および韓国企業とわれわれの関係は強固な基盤の上に成り立っている」と述べている。

米当局が韓国人労働者を拘束

原題:Wealth, Jobs Sparked Local Anger in Georgia Before Hyundai Raid(抜粋)

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