米ナイキの「ジョーダンブランド」は、多くのアスリートと「シグネチャー契約」を結んできた。選手自身のロゴが入ったシューズやウエアを展開するという最上位の契約で、契約選手には故コービー・ブライアント、ケビン・デュラント、レブロン・ジェームズらバスケットボール界のレジェンドが名を連ねる。

最近では、若手の有望選手もその仲間入りをしている。

しかし、ジャ・モラントはコート外で問題を起こし、SNS上で銃器を映したことで米プロバスケットボールのNBAから出場停止処分を受けた。ザイオン・ウィリアムソンはけがに悩まされ、ルカ・ドンチッチとジェイソン・テイタムはNBAファイナルで印象に残る活躍を見せられなかった。

ナイキが行き詰まっているというわけではないが、今年最も注目されているのはアディダスのスニーカー。NBAミネソタ・ティンバーウルブズのスター、アンソニー・エドワーズのシグネチャーシューズ「AE1」だ。

スポーツシューズ小売りの米フットロッカーは5月、このラインが同社で最も急速に伸びているシグネチャーモデルだと発表した。

他のブランドも存在感を示している。MVPに選ばれたオクラホマシティー・サンダーのシェイ・ギルジャス=アレクサンダーは、NBAファイナルでコンバースを着用した。タイリース・ハリバートンとシューズ契約を結んだプーマも注目されている。

一方、このところナイキがより成果を上げているのは米女子プロバスケットボールWNBAの分野だ。これはエリオット・ヒル最高経営責任者(CEO)が指揮する企業改革の一環で、同社はレトロなストリートウエアの戦略に長く頼り過ぎてきた体制を立て直そうとしている。

市場調査会社サーカナのフットウエア業界アナリスト、ベス・ゴールドスタイン氏は「WNBAの人気が爆発的に高まっていることを考えれば、そこに注力するのは理にかなっている。女子スポーツ界全体に成長機会があるのは明らかだ」と語った。

WNBAのスター選手であるサブリナ・イオネスク、エイジャ・ウィルソン、ケイトリン・クラークはいずれもナイキと契約している。イオネスクとウィルソンはここ2年のリーグ優勝に貢献し、昨年のドラフトで1位指名されたクラークも将来のタイトル獲得が期待される。

ニューヨーク・リバティのガード、イオネスクは2020年、ドラフト1位に指名された夜にナイキと契約した。初のシグネチャーコレクション「サブリナ1」は23年に発売。続く「サブリナ2」は24年夏に登場した。

ラスベガス・エイシズのセンター、ウィルソンも18年、ドラフト1位指名の直後にナイキと契約した。若手選手はまず既存ブランドのモデルを着用し、やがてシグネチャーラインを持つようになるのが一般的だ。

しかし、ナイキは24年4月、クラークと8年間で総額2800万ドル(約41億2400万円)のシグネチャー契約を発表。ウィルソンのシューズ発表の1カ月前というタイミングが物議を醸し、批評家からは、WNBA選手の70%を占める「黒人選手よりも白人選手を優先しているのではないか」との声が上がった。

ナイキはこの批判に直接答えなかった。ウィルソンのシグネチャースニーカー「エーワン」は今年5月に発売され、最初のカラーは数分で完売した。

クラークとの契約は女子バスケ史上最も注目を集めた。クラークのシューズは来春に発売予定で、既に数カ月にわたって開発が進んでいる。

進行中のプロジェクトについて語る権限はないとして関係者1人が匿名で語ったところでは、ナイキは26年シーズンが始まる同年5月直前のリリースを目指している。当初は24年のホリデーシーズンでの発売を予定していたが、経営陣の交代や今季のクラークの負傷、生産遅延などで延期されたという。

ナイキは今年8月25日、2つのCが組み合わさったデザインのシグネチャーロゴを公開していた。

だが、ナイキがWNBA契約を独占しているわけではない。24年ドラフト2位のキャメロン・ブリンクと7位のエンジェル・リースは他社と契約した。

リースは母校ルイジアナ州立大学の先輩で殿堂入りしたシャキール・オニールの後を追い、かつて彼のシューズを展開していたリーボックと契約。ブリンクはニューバランスと契約した最初の女子バスケ選手となった。リースのスニーカーは9月に発売予定で、秋にナイキの新作が予定されていないため注目を集めそうだ。

「アスリートはセレブ化しており、SNSで多くの人々に直接アプローチできる時代になった。だからこそ、より多くの選手が注目を浴びている」とゴールドスタイン氏は語る。

今後の焦点は、女子バスケに投資するナイキなどの企業がそうした取り組みを今後も続けるかどうかだ。ナイキは以前にもダイアナ・トーラジやエレーナ・デレ・ダンといったWNBAスターと手を組んでいたが、需要の低さから06年に契約を打ち切っていた。

しかし、少なくとも今のところ心配する理由はなさそうだ。ナイキの女子バスケへの関与は深い。同社は昨年、南カリフォルニア大学のスター、ジュジュ・ワトキンスとシューズに関する契約を結んだ。正確な契約額は分かっていないが、ESPNによれば、「女子バスケ界で最高クラス」だという。

ワトキンスは23-24シーズンに全米大学体育協会(NCAA)ディビジョンIで1年生として歴代最多得点を記録した逸材だが、シグネチャーシューズを手にするまでにはまだ時間を要する。彼女がWNBAのドラフトにエントリーできるのは27年以降だ。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:Nike’s WNBA Stars Are Outshining Their Male Counterparts(抜粋)

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