(ブルームバーグ):フランスのマクロン大統領は、財政赤字問題に対処するため首相選出を迫られているが、成功の見込みがある有力候補は見当たらない。首相が選ばれれば、この2年弱で5人目となる。
中道派で他党との協調経験も豊富なバイル首相は9日、就任から9カ月で辞任する。財政赤字削減案が、対立の激しい国民議会(下院)で支持を得られなかった。バイル氏は、昨年12月に不信任決議で辞任した中道右派のバルニエ前首相の後任だった。
バイル首相が8日に信任投票で敗北した直後、大統領府はマクロン氏が数日中に新首相を任命すると発表し、選挙には踏み切らず速やかに態勢を立て直す方針を示した。

ただ、どの選択肢もマクロン氏にとっては厳しい情勢だ。以下は、次期首相候補の主要なシナリオだ。
再び中道派から
最も手堅いアプローチは、バイル氏と同様にマクロン氏の政策路線に沿った中道派を選ぶことだ。ルコルニュ国防相(39)はそうした条件を満たす人物で、前回の内閣改造時も有力候補だった。
ダルマナン法相(42)も同様の政治的路線を示す人選となり得る。中道右派出身ながらマクロン政権で複数の閣僚ポストを歴任してきた。ヴォートラン労働・保健・連帯・家族相も似た経歴を持つ。
しかし、こうした同じ路線の人選では議会で再び敗北を喫し、最終的に辞任に追い込まれるという結果を繰り返す可能性が高い。
左派寄り
バイル氏は2025年度予算案を可決させる際、中道左派の社会党議員に棄権を促すことで切り抜けた。社会党が急進左派政党「不屈のフランス」から距離を置いたことで、社会党出身者の首相起用は現実味を帯びつつある。
マクロン氏自身も社会党のオランド前政権下で政治キャリアをスタートしており、現党首のオリビエ・フォール氏は7日、要請があれば首相就任を受け入れる姿勢を表明した。
ただ、不屈のフランスを率いるジャンリュック・メランション氏は、フォール氏の首相就任を支持しない考えを示している。また、左派寄りの姿勢を鮮明にすれば、予算案通過や政権存続に重要な役割を果たすと考えられる保守中道の共和党との関係を悪化させる恐れがある。
右派寄り
一部の共和党議員は、左派出身の首相との協力に含みを持たせているが、同党党首でバイル内閣で内相を務めたブリュノ・ルタイヨー氏は週末、社会党出身者が首相に就くのは「論外」だと断言した。
共和党は国民議会で577議席中49議席を占めているが、ルタイヨー氏や他の同党指導部メンバーの首相起用は大きな政治的リスクを伴うだろう。
左派長老の起用
右派との関係を損なわずに左派に接近するには、足元の党派色の強い政界から距離を置いた人物を起用する方法もある。昨年12月、マクロン氏はオランド政権下で首相を務めたベルナール・カズヌーブ氏(62)の起用を検討した。

短命に終わったバルニエ内閣では同様に、ディディエ・ミゴー氏(73)が登用された。ほかにも、オランド、マクロン両政権で閣僚経験があるジャンイブ・ルドリアン氏(78)や、現在の会計検査院トップのピエール・モスコビシ氏(67)の名も上がっている。
仏メディアでは、25年度予算案で社会党との橋渡し役を果たしたロンバール経済・財務相(67)氏も有力視されている。過去に左派と近い関係にあったが、現在はマクロン氏の企業寄りの政策に忠実だ。
テクノクラート

いずれの政治的立場の選択がうまくいかない場合、党派色のないテクノクラートの首相任命も視野に入る。昨年9月にバルニエ氏を任命する前には、無名だが政府の諮問機関「経済社会環境評議会(CESE)」の議長を務めるティエリー・ボーデ氏がメディアで取りざたされていた。
より知名度の高い選択肢としては、ビルロワドガロー仏中銀総裁がいる。同総裁は、財政政策に加え、公平かつ広く分担される赤字削減の必要性についてこれまで何度も発言している。
とはいえ、こうしたテクノクラートの起用は、マクロン氏が政治の機能不全を認めるに等しい措置となりかねない。
原題:Macron Is Running Out of Viable Prime Ministers for France(抜粋)
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