8月の米雇用統計では、雇用者数の伸びが大きく鈍化し、失業率は2021年以来の高水準に上昇した。労働市場が本格的な悪化局面に差しかかっているとの懸念が強まった。

左:非農業部門雇用者数、右:失業率

過去データの修正により、6月の雇用者数は2020年以来の減少となった。

米国債利回りは全年限で7-12ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下。短期債の利回り低下が大きく、利回り曲線はスティープ化している。S&P500種株価指数は高く始まったが、下げに転じた。

今回の統計を受け、連邦公開市場委員会(FOMC)が16~17日の次回会合で利下げに踏み切ることが確実視されるようになった。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は先月のジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)での講演で、その可能性を示唆していた。FOMC会合前には8月の消費者物価指数(CPI)の発表も控えている。

7月の雇用統計が市場に衝撃を与えたため、今回の数値は労働市場の底堅さに対する懸念を一段と強める可能性がある。ここ数カ月、雇用の増加ペースは大きく鈍化し、求人件数は減少、賃金の伸びも和らいでおり、こうした動きが景気全体の重しとなっている。

8月は情報や金融、製造業、連邦政府、ビジネスサービスなど複数の業種で雇用が減少した。一方、雇用の増加は主に医療と娯楽・ホスピタリティーに集中した。

ネイビー・フェデラル・クレジット・ユニオンのチーフエコノミスト、ヘザー・ロング氏はリポートで「労働市場は凍結状態から亀裂状態へと移行している」とし、「これはホワイトカラーとブルーカラーの両方に及ぶ雇用不況だ」と指摘した。

7月の雇用者数は小幅に上方修正された一方、6月は一段と弱い内容となった。前回の雇用統計では過去データが大幅に下方修正された。これを受け、トランプ大統領は労働統計局(BLS)の局長を解任し、証拠を示さないまま「政治的利益のために数字を操作した」と非難した。

トランプ氏は、保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のチーフエコノミスト、EJアントニー氏を新局長に指名したが、就任には上院の承認が必要となる。

今回の統計に含まれる修正を考慮すると、過去3カ月の雇用者数は平均でわずか2万9000人増にとどまった。雇用者数が10万人を下回るのは4カ月連続で、コロナ禍以降で最も弱い雇用の伸びが続いている。

BLSは毎月のデータ修正に加え、より包括的だが速報性に欠ける年次改定も実施している。年次改定の暫定値は9日に公表され、確定値は来年初めに示される予定。

BLSは5日朝、システムの「技術的問題」が発生していると警告したが、データは東部時間5日午前8時30分に予定通り公表された。

ブルームバーグ・エコノミクスのアナ・ウォン、スチュアート・ポール、エステル・オウ3氏はリポートで「8月の弱い雇用統計により、9月16〜17日のFOMC会合での利下げは確実になった。非農業部門雇用者数は雇用の弱さをやや誇張している可能性があるものの、失業率の上昇は労働需要の減退が供給の減少を上回るペースで進んでいることを示唆している」と指摘した。

エコノミストの間では、現在の労働市場は採用も解雇も少ない状態との見方が一般的だが、レイオフはやや加速している。

失業率の上昇には、再就職を目指して労働市場に戻ってきた人の影響もあるが、職を恒久的に失った人の数は約4年ぶりの高水準に達した。27週以上にわたって失業している長期失業者も2021年以来の水準に増加し、経済的な理由でパートタイム労働に就いている人の数も増えている。

再就職あっせん会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが4日発表した8月の人員削減数は同月としては2020年以来の高水準となった。9月に入っても削減の動きは既に出ており、米エネルギー大手コノコフィリップスは3日に従業員の20-25%を削減する計画を明らかにしている。

働く意思のある人や実際に働いている人の割合を示す労働参加率は62.3%に上昇。働き盛り世代の25-54歳の参加率はほぼ1年ぶりの高水準となった。

一方で、黒人の失業率は上昇が続き、約4年ぶりの高水準となった。これは、労働市場への新規参入が増えた影響も一因とされる。ヒスパニック系や高校を卒業していない人の失業率も上昇した。

中央銀行当局者は、労働供給と需要のバランスが賃金にどう影響するかを注視しており、とりわけインフレリスクが上振れ方向にある中ではその関心が高い。今回の統計では、平均時給が前年比で3.7%上昇した。

統計の詳細は表をご覧ください。

原題:Weak US Payroll Gain of 22,000 Cements Case for Fed Rate Cut (2)(抜粋)

(第13段落以降を加え、更新します)

--取材協力:Chris Middleton、Augusta Saraiva、Nazmul Ahasan.

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