(ブルームバーグ):米国の空を監視する航空管制官の不足を受け、米連邦航空局(FAA)は大規模な採用活動に乗り出した。だが今度は、採用した新人に仕事の基本を教える教官が足りないという新たな問題に直面している。
オクラホマ州オクラホマシティーにあるFAAの養成所の教官は、管制官を退職した60代が中心だ。午前7時から深夜0時までの勤務を強いられるケースが増えており、自腹で買うコーヒーを何杯も飲みながら長時間労働をこなしている。住宅手当は1日60ドル(約8800円)にとどまり、治安の悪い地域にある家賃の安い集合住宅で生活する教官も多い。
多くの教官がパートタイムで時給約46ドルとなっており、新しい労働協約によって教官の報酬や福利厚生はやや改善されたが、大量の新人受け入れに伴い、仕事の負担はむしろ重くなっている。ブルームバーグ・ニュースが入手した勤務表や現役の教官8人の取材で、こうした状況が分かった。
7月時点では、FAA史上最多となる550人の研修生が養成所に在籍していたが、8月と9月はこれを上回る可能性がある。ブルームバーグ・ニュースが確認した勤務表を見ると、教官のダブルシフトが急増している。
ある教官によれば、過酷な勤務の結果「ゾンビのように歩き回る」教官もいるという。取材に応じた教官の中には、心身の健康を守るためにダブルシフトを拒否している人もいた。
FAAでは2024会計年度末(24年10月)時点で、資格を持つ管制官が約3900人不足していた。採用プロセスの迅速化と研修生の待遇改善で今年度は約2000人を採用する見込みだとしている。28年までに少なくとも8900人の管制官を採用する計画だが、FAAは教官数によって、養成所に送り込める研修生の人数に「事実上、制約がかかっている」と直近の報告書で認めた。
ダフィー米運輸長官は研修生急増に対応するため、教育補助員や管制官出身でない「専門教育者」を活用して教官不足を補う方針を示している。これらの教官は数カ月以内に、採用・訓練を経て業務に就く予定だ。FAAは、管制官出身でない教官でも同等の指導が可能だとする調査結果があるとしているが、公表はしていない。
一方で、長年の現場経験からしか得られないノウハウをこうした代替の教官は教えられないと語るベテラン教官もいる。
原題:America’s New Air Traffic Control Crisis: An Instructor Shortage(抜粋)
--取材協力:Allyson Versprille.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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