(ブルームバーグ):ベトナムで最も裕福な実業家ファム・ニャット・ブオン氏が、タクシー会社グリーン&スマート・モビリティー(GSM)を通じ、東南アジアの配車サービス市場に旋風を巻き起こそうとしている。国内市場でグラブ・ホールディングスと首位を争う中、海外展開を進めている。
ただ、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、ネイサン・ナイドゥ氏は、この業界は利益率が低く、海外での存在感もまだ小さいことから、GSMの挑戦は容易ではないと指摘する。
調査会社モルドールインテリジェンスによれば、ブオン氏は豊富な資金力と攻めの価格戦略、自身が創業した電気自動車(EV)メーカーのビンファスト・オートの車両を武器に事業を拡大している。

ベトナムで「サンエスエム(Xanh SM)」と呼ばれるGSMは設立から2年半ながら、すでにラオスとインドネシア、フィリピンに進出しており、ビンファストがEV工場をオープンしたばかりのインドにも進出する見通しだ。ビンファストはこの秋、インドネシアにも自動車工場を開設する計画を明らかにしている。
ブオン氏はGSMの95%の株式を保有し、同社をビンファストを世界的なEVブランドに育てるためのマーケティングツールと位置付けている。
ビンファストの1-3月(第1四半期)自動車販売台数は、GSM向けが約21%を占めた。

GSMグローバルのグエン・バン・タン最高経営責任者(CEO)は、親会社ビングループの「より広範な戦略」の一環として、GSMは今後、他のアジア各国への展開や都市間輸送、プレミアム配車、配送、法人向けサービスなどへの拡大も視野に入れていると語った。
モルドールインテリジェンスによると、GSMは1-3月のベトナム配車市場でシェア40%を獲得。グラブが32%、BEグループは6%だった。一方、楽天インサイトは現在の市場シェアについて、グラブが55%、GSMは35%としている。
フィリピン政府が6月に出した声明によれば、マニラ首都圏に2500台の車両を投入したGSMは今後3年で10億ドル(約1470億円)を同国に投資する計画。GSMはこの件に関するコメントを控えた。
インドネシアでは、「グリーンSM」と呼ばれるEVタクシーを年内に1万台展開する方向で、グラブやゴートゥー・グループ、ブルーバードなどの大手と競い合う構えだ。

メイバンク・セキュリティーズのアナリスト、エッタ・ルスディアナ・プトラ、フサイニ・サイフィー両氏は昨年12月のリポートで、GSMの車両数が1万6000台に増えれば、2026年にはインドネシアの配車市場で6%のシェアを獲得でき、3万5000台まで拡大すれば、27年にはシェアが12%に達する可能性があると分析。
これは現在のベトナム国内の保有台数にほぼ匹敵する規模だ。GSMの台頭により、27年にはグラブのオンデマンドサービス売上高が1%、ゴートゥーは3%、それぞれ減少し得るという。
BIのナイドゥ氏によれば、GSMの車両数は東南アジア全域で数百万台を抱えるグラブやゴジェックに遠く及ばない。同氏は、ブオン氏のインドネシア進出はグラブやゴジェックに重大な脅威になるとはみていない。
ゴートゥーはコスト削減の一環として、タイやベトナムなど他国から撤退しており、新規市場への参入が容易ではないことを浮き彫りにしている。

原題:Vietnam Billionaire’s Taxi Firm Takes On Grab in Southeast Asia(抜粋)
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