中国は自動車や鉄道の分野で欧米の産業技術に肩を並べ、あるいは追い越すことに成功している。しかし航空機分野では、いまだに大きく後れを取っている。

中国の航空会社数社がボーイングとエアバスに対し、合わせて約1000機の新型旅客機を発注する方向だと最近報じられ、その現実が浮き彫りになった。

中国商用飛機(COMAC)は2008年の設立以来、これまでに納入した航空機は200機にも満たない。納入先の多くは国有の国内航空会社に限られている。

中国は欧米の二大航空機メーカーへの依存を減らすため巨額の資金と長年の歳月を投じてきたが、成果は限定的だ。現時点でもCOMACは今年中に約75機の納入を目標としているが、達成できない可能性がある。

C919

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアジア航空・防衛担当アナリスト、エリック・チュー氏は、「ボーイングまたはエアバスによるナローボディー(単通路)機の追加受注は、COMACの野心に打撃を与える」とみている。

COMACのC919は158-192席の機体で、エアバスのA320neoやボーイングの737MAXに対抗する狙いで開発された。しかし、自国以外での販売には苦戦している。最大の理由は、中国以外の主要な航空当局から耐空証明を取得できていないためだ。

また、C919は米国製を含む西側の部品に大きく依存していることから、上海に本社を置くCOMACは、米中間の報復関税合戦の矢面にも立たされてきた。トランプ米政権は対中関税を最大145%にまで引き上げたが、その後、米中は通商休戦に至っている。

 

米政府は過去に一部の重要部品、特にジェットエンジンの対中輸出を制限したことがあり、COMACの生産拡大に向けた取り組みに打撃を与えた。単通路のC919は、フランスと米国の合弁企業CFMインターナショナル製エンジンなど、他社が製造する部品のカスタマイズ版を主に使用している。

東南アジアに照準

航空データ会社シリウムによれば、COMACは今年中に最大75機の納入を計画していたが、8月半ば時点で中国の顧客に引き渡したC919はわずか5機にとどまっている。

運航が始まっているもう一つのCOMAC機は、より小型のリージョナル機C909だ。

こちらも主に中国国内の航空会社と、インドネシアのトランスヌサが使用。中国政府がCOMACの地位向上に力を注ぎ、C919の発注残は1000機超に上るものの、これまでに中国の航空会社に納入されたのは400機未満。発注元の多くは国内の航空機リース会社だ。

 

一方で、エアバスは1988年にA320ファミリーの生産を開始して以来、ボーイング737系を累計販売台数で初めて上回ろうとしており、早ければ9月にもその瞬間が訪れる見通しだ。

シリウムのバリュエーション担当シニアマネジャー、リオネル・オロンガ氏は「現時点ではCOMACはエアバスとボーイングの補完的存在に過ぎない」としつつ、「2030年代半ばには十分な生産能力を備え、ナローボディー機の更新需要に際して、航空会社がC919に乗り換える可能性もある」と指摘した。

COMACは国際的な存在感を高めるため、シンガポールと香港に営業拠点を開設。販売先としてはベトナムやインドネシア、カンボジアなどをターゲットとしており、一部では航空会社への出資を含む寛大な融資条件を提示することで契約獲得を狙っている。

COMACと中国が少なくとも改善を目指している分野の一つが、西側サプライヤーへの依存だ。COMACは、C919や将来の機種に搭載可能な中国製エンジンの開発を進めている。

シンガポールを本拠とするアルトン・アビエーション・コンサルタンシーのディレクター、アラン・リム氏は「航空機の開発・製造は最も困難な作業の一つであり、COMACはいまだに業界では新参者」だと指摘。その上で、C919が長期的に安全性に関する実績を積み重ねていけば、「2強体制に挑む可能性も出てくる」との見方を示している。

原題:Big Pending China Deals for Boeing, Airbus Set Comac Back Again(抜粋)

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