(ブルームバーグ):モルガン・スタンレーは7月、世界有数の資産運用会社4社に対し、異例のメッセージを送った。注目が集まるプライベートクレジット案件の一つで最終選考に残ったという通知だった。しかし、契約を勝ち取るには、他社と組むという条件があった。
モルガン・スタンレーは、マーク・ザッカーバーグ氏率いるメタ・プラットフォームズに約290億ドル(約4兆3000億円)を提供する権利を巡って、2組のチームを競わせた。メタが米ルイジアナ州に建設を計画している大規模な人工知能(AI)データセンター建設のための資金だ。
事情に詳しい複数の関係者によると、案件があまりにも大規模であるため、メタとモルガン・スタンレーは、たとえ規模の大きな金融機関であっても1社のみに依存することを避けたいと考えた。
そのためモルガン・スタンレーは、パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)とブルー・アウル・キャピタルを一つのチームに、アポロ・グローバル・マネジメントとKKRをもう一つのチームとして、全額を迅速に融資できる体制を両チームに整えさせた。
両チームによる争いは8月初めに決着し、モルガン・スタンレーはPIMCOとブルー・アウルを選んだと、ブルームバーグが報じた。メタは、伝統的な機関投資家である債券運用大手と、急成長中のプライベートクレジット企業という異なる強みを持つ2社の組み合わせを採用したことになる。

この決定により、年初から続いていたプロセスに終止符が打たれた。モルガン・スタンレーが資産運用会社を招いたAIインフラ投資に関する夕食会から始まった交渉は、非常に複雑なものとなった。非公式な協議の開始から約8か月もの時間を要し、関係者の想定をも超える長期戦だった。
関係した全ての企業はコメントを控えている。
昨年末にモルガン・スタンレーが開催した非公開の夕食会の場には、世界の大手プライベート資本企業の多くが招かれていた。モルガン・スタンレーのバンカーたちは、AI業界が今後直面する巨額の資金需要について説明し、その規模の大きさから、資産運用会社同士が協力し合う必要があると説いた。
その後、間もなく、モルガン・スタンレーは複数の運用会社に接触を開始。メタが世界27カ所に展開するデータセンターの中でも最大となる最新プロジェクトへの出資を打診した。

メタはこのデータセンターの費用を、自社の手元資金で賄うことも、通常の社債で調達することも選ばなかった。そこでモルガン・スタンレーが提案したのが、データセンターの資産自体にひも付けられた特別目的会社(SPV)を活用するスキームだった。
交渉が本格化したのは4月。秘密保持契約が締結され、最初の条件案(タームシート)が提出された。
交渉に詳しい複数の関係者によれば、当初は複数の大手資産運用会社が単独で案件を引き受けようと積極的に動いた。ブルームバーグの報道では、アポロが有力候補とされていたが、メタは、より有利な条件を求めて交渉を継続した。
一方、モルガン・スタンレーは複数の大手銀行にも融資を打診。ブラックストーン、ブルックフィールド・アセット・マネジメント、アレス・マネジメント、シックスス・ストリート・パートナーズといった他の大手資産運用会社も、それぞれ独自に動いていた。
これらの企業は全て、コメントを控えている。
7月までに、メタとモルガン・スタンレーは候補を4社に絞り込んだ。アポロとKKRは傘下保険会社の資金への依存度が高い点で共通していた。PIMCOとブルー・アウルは、過去に協力した実績があった。
アポロとKKRが提示したスキームは、より非公開性の高い条件を含んでおり、将来的に債権を販売できる対象の投資家の範囲が限定される一方で、貸し手側がプロセスに対してより強い主導権を持てる内容だった。
これに対し、最終的に採用されたPIMCOの提案は、「144A債」と呼ばれる業界標準の形式で、今後この債券を他の投資家に再販売しやすい構造となっている。
同案ではPIMCOがモルガン・スタンレーと共に総額260億ドル相当の投資適格債を組成する。PIMCOはその一部を引き受けるとともに、一部を他の投資家に販売する可能性についてもモルガン・スタンレーと協議を進めた。ブルー・アウルは30億ドルを出資する。
一方、アポロとKKRは、自社の資本市場部門を活用し、資金全体を自前で調達・運用する意向だった。
関係者によれば、8月1日には最終決定が出ると見込まれていたが、メタは最終候補に対して追加の質問を行い、プロセスはさらに1週間延長された。そして7日、ブルー・アウルとPIMCOに正式な連絡が入った。
合意に至った債券は期間24年で、そのうち最初の4年間は建設期間とされ、その後にリース支払いが開始される。関係者によると、合弁事業の持ち分は、メタとブルー・アウルの間で分割される見通し。
モルガン・スタンレーは、これまでも大型のプライベートクレジット案件に関与してきた。今年は、アレスと共にクリアレイク・キャピタル・グループによるダン&ブラッドストリート・ホールディングスの買収を支援する50億ドルの債務パッケージを組成している。
原題:How Pimco Outmaneuvered Apollo, KKR to Win $29 Billion Meta Deal(抜粋)
--取材協力:Riley Griffin.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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