(ブルームバーグ):トランプ米大統領から公に辞任を要求されてから2週間もたたないうちに、インテルのリップブー・タン最高経営責任者(CEO)は会社を立て直すための新規資金、数十億ドル規模を確保できる見通しが立った。
事情に詳しい複数の関係者によると、トランプ政権はインテル株の約10%を取得する方向で協議している。国内半導体業界支援法(CHIPS法)に基づく補助金の一部または全額を、株式に転換する可能性を検討しているという。実行されれば、インテルはタン氏の下で再生戦略に取り組みながら、約100億ドルの資本にアクセスできるようになる。
ほぼ同じタイミングで別のサプライズが明らかになった。ソフトバンクグループがインテルに20億ドル(約2960億円)規模の株式取得を発表。孫正義氏が創業したソフトバンクグループは、人工知能(AI)ブームでの役割拡大を狙っている。すでに半導体設計会社アーム・ホールディングスの過半数株式を取得しているソフトバンクグループは、AI半導体市場で大手エヌビディアと競合する計画を明らかにしている。ChatGPTのようなAIモデルを動作させ、場合によっては学習させるための半導体をソフトバンクグループは製造する上で、インテルの半導体製造能力が貢献する可能性がある。
ニューヨーク時間19日の米株式市場でインテルは約7%で引けた。一時は12%余り上昇する場面もあった。ソフトバンクグループ株は東京市場で4%下げた。
ホワイトハウス訪問
トランプ大統領が今月、利益相反を理由にタン氏の辞任を求めたことで、CEOの地位は危うく見えていた。しかしタン氏は直ちにホワイトハウスを訪れてトランプ氏と会談し、事情を説明。大統領はその後、タン氏の「成功と出世は素晴らしいストーリー」だとソーシャルメディアに投稿した。
これが政府による出資の可能性を整える舞台となった。実現すれば米政府はインテルの最大株主となる。部外秘情報であることを理由に匿名で話した複数の関係者によると、政府はCHIPS法に基づく補助金109億ドルの一部もしくは全額を株式に転換する可能性を検討している。これとは別にインテルは同法に基づき最大110億ドルの融資を利用できる。
ラトニック米商務長官は19日、米政府が半導体大手インテルの株式取得を巡り同社と協議していることを確認した。経済専門局CNBCとのインタビューで、「これはガバナンスではない。バイデン政権の助成金を株式化しているだけだ」と続けた。
補助金の額は、政府が検討する株式約10%の取得を賄うのに十分な規模だ。インテルの現在の時価総額に基づくと、株式10%は約105億ドルに相当する。関係者らは、正確な取得規模やホワイトハウスがこの計画を進めるかどうかについては、なお流動的だと18日にブルームバーグに述べていた。
ホワイトハウスのデサイ報道官は、政権が発表するまではいかなる取引も正式なものではないとだけ述べ、協議の詳細についてのコメントは避けた。
大きな疑問は、政府の持ち株とソフトバンクによる後押しがインテルの事業再生につながるかどうかだ。同社は半導体製造受託では台湾積体電路製造(TSMC)に、チップ設計ではエヌビディアに後れを取り、人工知能(AI)分野への投資ブームを取り逃してきた。
ソフトバンクグループの取締役を2年間務めていたインテルのタン氏は、会社再建を目指している。しかしこれまでの取り組みは主にコスト削減と人員削減に集中している。タン氏は7月、同社が大規模な製造能力を追加するのは、顧客がより先端的な生産技術の利用を約束した場合に限ると述べ、投資家は半導体分野での主導権争いから後退するとの懸念を強めていた。
トランプ政権が特に注目しているのは、バンス副大統領の地元オハイオ州にある、インテルの大規模プロジェクトだ。インテルは、当初は世界最大の半導体製造施設を目指していた同拠点の開業を、繰り返し延期している。
他企業に適用する可能性
ホワイトハウス関係者は、他のCHIPS法の補助金についても株式に転換する可能性を示唆した。ただし、この構想が政権内でどの程度支持を得ているのか、また、影響が及ぶ企業に打診されたのかは不明だ。
米政府とソフトバンクは、どちらもインテルの立て直しに可能性を見いだしているが、それぞれ注目する事業領域は異なるようだ。トランプ政権にとっては、半導体製造力の回復が雇用創出と有権者獲得につながる。一方ソフトバンクにとっては、利益率の高いチップ設計事業が魅力となっている。
原題:Intel’s CEO Draws Support for Revival From SoftBank, Trump (2)(抜粋)
(インテルの株価を終値に更新し、第7段落にラトニック米商務長官のコメントを加えます)
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