国際的な歌手・俳優の故ジェーン・バーキンさんは、自身の名前を冠したエルメスのハンドバッグに、多くの小物やビーズのアクセサリーなどを飾り付けていたことで知られる。それから何年もたった今、バッグを彩るバッグチャームが復活を遂げている。

中国発のキャラクター「ラブブ」のキーホルダーもZ世代の若者を中心とした装飾トレンドの復活を後押しし、一気に主流となった。現在、チャームは高級ファッションのランウェイにも登場し、有名人もバッグにチャームをぶら下げるようになっている。

低迷期でも成長を模索するデザイナーバッグメーカーは、こうした現象に特に注目している。金銭的に余裕のある顧客に何千ドルもする新しいバッグを購入するよう促すことができなくても、すでに所有するバッグ用のブランドチャームに数百ドルを費やしたいと思わせることはできるかもしれない。

イーサン・ディアスさんは以前、高級バッグやストリートウエアを定期的に購入していたが、使わないことも多かった。今ではバッグチャームを利用することで、予算をオーバーすることなく、バッグの見た目を手軽に変えることができるようになった。

最近では、695ドル(約10万3000円)のコーチのソフト・エンパイア・キャリーオール・バッグに、ロンシャンのクロワッサン形キーリング(120ドル)などを付けている。

コマーシャルディレクターのディアスさん(24)は1年前からこうした装飾品を購入し始め、30点を所有するようになった。最も高価なものは、1010ドルのルイ・ヴィトンのクラブ(カニ)チャームで、小さなポーチとしても使える。

「組み合わせは自由で、異なるバッグに付けられる。特定のスタイルに縛られることはない」とディアスさんは話す。

高級ブランドの販売は数四半期にわたり減少している。各社はこうした苦境を乗り越え、店舗の客足を伸ばすため、より手頃な小型アクセサリーを投入している。

LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンが先月発表した4-6月(第2四半期)の売上高は、中核となるファッション・レザーグッズ部門で9%減少。買い物客が高額バッグや衣類の購入を控えた。同業のケリングは、同じ期間で傘下グッチの販売が前年同期比25%減ったと公表する一方、プラダの売上高は3.6%減少した。

こうした企業の株価は振るわず、下落率はここ1年で2桁に達している。コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーは個人向け高級品業界について、今年2-5%縮小すると予測。この通りなら、新型コロナウイルス禍を除けば、2009年の世界金融危機以降で最も悪いパフォーマンスとなる。

分析を手がけるグローバルデータのマネジングディレクター、ニール・ソーンダース氏は急速に広がるバッグチャーム・ブームに乗ることは、高級ブランドにとって状況の変化に対応する上で合理的だと指摘。そこから利益を上げられるかもしれないと語る。

高級ブランド、コーチの売り上げが堅調で、競合大手に比べて業績が底堅いタペストリーは、コーチやケイト・スペードでチャームの品ぞろえを拡充している。販売が伸び悩むケイト・スペードでは、ホリデーシーズンに提供するアイテム数を大幅に増やす計画だ。

タペストリーの戦略・コンシューマーインサイツ担当バイスプレジデント、アリス・ユー氏は、特徴のあるバッグチャームは両ブランドへの「身近な入り口」になると期待を示す。

超高級ブランドは従来からチャームを販売していたものの、主に高額商品の付属品として扱ってきた。多くのブランドはオンラインでのみ販売していたが、今ではブティックやファッションショーの主役となっている。

グローバルデータのソーンダース氏は高級ブランドについて、「この分野に参入し、積極的に取り組まなければ、他のブランドが先手を打つだけだろう」と指摘。富裕層の一部顧客が新しいバッグや衣類の購入を控える中、スタイリッシュなバッグチャームで顧客を引き付けることは、困難な時期に顧客との接点を維持する手段となる。

「ブランドにとって最も悪いことは、顧客を完全に失うことだ」とソーンダース氏は話す。

高級百貨店ブルーミングデールズの店舗を最近訪れた際、ハンドバッグ売り場ではチャームが目立っていた。マンハッタン旗艦店では、プラダが825ドルの黒と金のロボットチャームを2300ドルのバックパックに付けて展示していた。

ロサンゼルス店では、グッチの510ドルのトンボ形キーチェーンが1950ドルのハンドバッグの取っ手の一つに付けられていたほか、各450ドルする犬形チャーム3点がモノグラムのカードホルダーや小物入れと共にディスプレーケースに並べられていた。

効果は限定的

バッグチャームがブームとなっているものの、高級ブランドを後押しする効果は限られると、業界アナリストらは警鐘を鳴らす。

ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、デボラ・エイトケン氏はプレミアムファッションブランドの販売において、チャームは最終的には「非常に小さな割合を占めるに過ぎないだろう」と分析。「潜在顧客に対するブランドの意識付けには十分だが、全体的な額としては非常に限定的だ」と述べた。

ルイ・ヴィトンとロエベはバッグチャーム戦略や販売実績に関してコメントを控えた。グッチとフェンディにもコメントを求めたが、返答はなかった。

コンテンツクリエーターのクレビサ・ヘンドリックスさん(27)はコーチのランウェイでバッグチャームを見て、今年からチャームを購入し始めた。現在では十数点を持っている。1点当たりの購入額は100ドル未満であることが多い。

「おしゃれはしたいけど、手の届く範囲で楽しみたい」とヘンドリックスさんは語った。

原題:Bag Charms Selling for $1,000 Are Retail’s Next Little Luxury (1)(抜粋)

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