『利下げ期待』の共有が、株価最高値更新の最大の原動力でした。市場の守護神のように受け止められているベッセント財務長官が、「FRBは9月に0.5%利下げすべきだ」と公言したことから、株式市場はお祭りムードに包まれました。金融政策の主役であるはずのFRBは置いてきぼりのまま、市場はすでに大幅利下げを織り込み始め、パウエル議長は「外堀」を埋められた格好です。
大きく下振れした米雇用統計

今局面の株式ラリーに火をつけたのは、1日に発表されたアメリカの7月の雇用統計でした。景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数が、好調の目安とされる、15万から20万を大幅に下回る7万3000人の増加に留まったのです。
より衝撃的だったのは、過去2か月の数字が大幅に下方修正されたことでした。6月、5月がいずれも14万人台から、それぞれ1万4000人、1万9000人へと、増加数が大きく引き下げられたのです。就業者数の増加が2か月連続で1万人なら、「利下げがあったはずだ(ベッセント財務長官)」と思う人がいてもおかしくないだけに、トランプ大統領は怒り狂い、労働省の統計局長を解雇する事態に発展しました。
元々、アメリカの雇用統計は振れの大きなものだったので、トランプ大統領が主張するような「データの政治的な捻じ曲げ」があったと考えるエコノミストは、ほとんどいません。それでも、これだけ弱い雇用統計は「金融緩和に舵を切る局面」であると、市場に思わせるに十分でした。
関税でインフレ再燃は杞憂か
雇用統計で景気減速サインがはっきりする一方、心配だったインフレは、今のところ明確な再燃サインが出てきません。12日発表の7月のアメリカの消費者物価は、前年同月比2.7%上昇と前月と変わりませんでした。食品とエネルギーを除いたコア指数は、実は3.1%上昇と、伸び率を拡大させているのですが、すでに「利下げ祭り」気分の市場関係者はさして気に留めなかったようです。
むしろこの日、ベッセント財務長官がFOXテレビのインタビューで「消費者物価の数字は素晴らしい。9月に0.5%利下げを検討すべきだ」と述べたことが、株式市場をさらに勢いづかせました。