黄金時代からの転落 状況を一変させたデモとコロナ禍
エイドリアン氏の祖父、チェン・ユートン氏は第二次世界大戦中、中国南部の広東省から逃れ、1945年に香港へ渡りました。
そこで彼は「周大福」という金の宝飾店で働き始め、人口増加の恩恵を受け、宝飾店は大成功を収めました。
この宝飾店で得た資金を元に、チェン氏は不動産事業へと参入。
1970年代から80年代にかけては、香港の不動産業界にとってまさに黄金時代でした。
そして2010年代、新世界発展の主導権を握り始めたエイドリアン氏は、会社の刷新が必要だと考えました。
当時の新世界発展は、高級ブランドとしての地位を確立し、洗練された中間層をターゲットにしていました。
顧客はより個性的で高級に見える家を求め、それが同社の大成功につながりました。

しかし、好景気は永遠には続きませんでした。
香港の運命は、大きく変わりつつあったのです。
2019年3月、中国政府の影響力拡大に反対する抗議デモが始まり、同年6月には推定200万人もの人々が香港政府の方針に反対するデモに参加しました。
警察と治安部隊によってデモは鎮圧され、中国が導入した国家安全法は大きな議論を呼び、香港の国際的イメージを著しく悪化させました。
この信頼の揺らぎに、さらにコロナ禍が追い打ちをかけました。
香港はロックダウンされ、世界経済は減速。
香港経済は大きな打撃を受け、コロナ後も回復に苦しみました。観光客の数も、かつての水準には戻っていません。
エイドリアン氏が描いた華やかな未来像は、縮小し変わり果てた香港という現実にぶつかり、それまで抱えていた負債が深刻な問題として浮上し始めたのです。
