(ブルームバーグ):7月の米雇用統計によると、米雇用者の伸びはこの3カ月に大きく減速したことが明らかになった。経済を巡る不確実性が広がる中で、労働市場のペースが落ち始めていることが改めて示唆された。
労働統計局の発表によれば、雇用者数の伸びは前月と前々月合わせて26万人近く下方修正された。これまで3カ月の平均はわずか3万5000人の増加で、コロナ禍後の最悪を記録した。
今回の統計では、労働市場の軟化が一段と鮮明になった。雇用者の伸びが著しく減速し、失業率が上昇しただけでなく、失業者の再就職が困難になり、賃金の伸びもおおむね停滞している。消費者と企業の支出減速はすでに起きているが、これがさらに進行するリスクが高まっている。
統計発表後の金融市場では主要株価3指数が軒並み下落。米国債利回りは低下し、ドルは売られた。ニューヨーク外国為替市場では統計発表後に、円が対ドルで上げ幅を拡大。一時2%上昇し、1ドル=147円50銭まで円高・ドル安が進んだ。9月の次回連邦公開市場委員会(FOMC)までに、雇用統計はあと1回、物価統計は複数回発表される。

ネーションワイドのチーフエコノミスト、キャシー・ボストジャンシク氏は「労働市場に入ったひびは大きく広がり、連邦公開市場委員会(FOMC)への利下げ圧力をさらに高めると同時に、据え置きに反対票を投じた連邦準備制度理事会(FRB)理事らの主張を裏付けた」とリポートで指摘した。
雇用者数の伸びが低かったのは、製造業と専門職、ビジネスサービスのほか、政府職員の雇用減が反映された結果だ。地方の公的教育機関雇用者の下方修正が、5月と6月の全体的な下方修正に影響した。6月に微増した民間雇用者数は、7月は増加に転じた。ヘルスケアと社会福祉関連の雇用が主な要因だった。
トランプ政権の政府支出削減による影響は、まだ雇用市場に波及する過程にある。連邦政府の雇用者数は6カ月連続で削減され、首都ワシントンをはじめ政府職員の雇用が集中する地域では失業率が徐々に上がってきている。人員削減は大学や非営利団体など、連邦政府の助成金に依存する機関にも広がっている。
労働市場に関する他の指標では、労働者の需要は総じて健全な水準を維持。求人件数は今もコロナ禍前の水準を上回っているほか、失業保険の新規申請件数は数週間前から減少傾向にあり、企業が人材を手放すことに消極的であることを示唆している。レイオフは全般に少ないが、ハイテク部門などを中心に増加しているのは、人工知能(AI)の台頭が一因とみられる。
同日に発表された7月の消費者マインド指数は5カ月ぶり高水準だった。別の統計では同月の製造業活動が5カ月連続で縮小したことが示された。
ブルームバーグ・エコノミクスのアナ・ウォン、スチュアート・ポール、イライザ・ウィンガー、エステル・オウ4氏は「今回の雇用統計で最大のポイントは、労働力に対する需要が供給を上回るペースで落ちていることであり、つまり労働市場はパウエルFRB議長が表現した『堅調』ではないということだ。議長はこれまでの意見を修正するだろう。12月の利下げがわれわれの基本シナリオだが、前倒しの可能性は高まっていると考えている」と分析した。
労働参加率は62.2%と、ほぼ3年ぶりの低水準となった。働き盛り世代の25-54歳でも、参加率は下がった。エコノミストの間では、トランプ米大統領の移民排除政策が労働市場から外国生まれの労働者を締め出し、労働参加率を押し下げると同時に失業率の上昇を抑えているとの見方もある。
27週間以上の長期失業者数は183万人に増加し、2021年末以来の多さだった。黒人の失業率も大きく上昇し、21年後期以来の高水準となった。
中央銀行は労働需給が賃金の伸びにどう影響しているかを注視する。インフレリスクの上昇が予想される環境では、なおさらその関心は高い。7月の平均時給は前年同月比では3.9%増加した。
統計の詳細は表をご覧ください。
原題:US Payroll Growth Slowed Dramatically Over Past Three Months(抜粋)
(エコノミストの分析とチャート、統計の詳細を加えます)
--取材協力:Chris Middleton、Jarrell Dillard、Reade Pickert、Nazmul Ahasan.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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