トランプ米大統領がホワイトハウスのローズガーデンで、各国への関税率を記したプラカードを掲げ、市場を混乱させてから4カ月後、7月31日に発表された修正案に対する投資家の反応は、やや落ち着いたものだった。

ただ、平均15%という関税は、米国としては1930年代以来最も高い水準で、1年前の約6倍にあたる。最新の発表によると、各国には最低でも10%の基本関税が設定され、米国との貿易黒字を抱える国には15%以上の関税が課される。多くは、上乗せ関税の方針を発表した4月2日時点の水準とほぼ同等かそれ以下だ。スイスに対する懲罰的な39%、カナダの一部製品への35%など、衝撃的な措置もある。

トランプ氏による関税攻勢後でも、世界経済はこれまでのところ、多くのエコノミストの予想より堅調に推移してきた。関税発行前の駆け込み輸出が起き、多くのアジア諸国を下支えするとともに、米国の消費者も価格高騰から守られてきた。

1日の金融市場では、アジア株が0.7%下落し、S&P500株価指数ナスダック100指数の先物は約0.5%下落、ストックス欧州600指数は1%以上下落した。トランプ氏が上乗せ関税を発表した4月2日の直後に比べれば、はるかに穏やかな下げ幅だ。

だが、それも今後は変わるかもしれない。

インド準備銀行(中央銀行)の元総裁で、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストを務めた、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのラグラム・ラジャン教授は1日、ブルームバーグテレビジョンで「世界にとって、これは深刻な需要ショックだ。世界経済が一定程度減速し、多くの中央銀行が利下げを検討することになるだろう」と語った。

 

今回の発表により、製造業者にとってはある程度見通しが立ったものの、関税に関する不確実性はなお多く残る。トランプ氏は今後数週間以内に、医薬品、半導体、重要鉱物、その他の主要工業製品に対する個別の関税を発表するとみられる。米国の裁判所では、上乗せ関税の合法性を巡る審理が続いている。

新たな関税が予定通り8月7日に発効し、欧州連合(EU)、日本、韓国との自動車関税に関する合意が維持されれば、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は、米国の平均関税率が現在の13.3%から15.2%に上昇すると推計している。トランプ氏の大統領就任前は、わずか2.3%だった。

ヒンリッチ財団で貿易政策部門を率いるデボラ・エルムズ氏は「非常に高い関税の壁だ。米国企業や消費者のコストは大幅に増加し、結果として消費は確実に減少するだろう」と指摘した。

 

複雑な判断

シンガポールのオーバーシー・チャイニーズ銀行のチーフエコノミスト、セレナ・リン氏は、関税分の消費者への転嫁はある程度避けられないと指摘した上で、「FRB(米連邦準備制度)の判断を難しくする要素となり得る」との見方を示した。

BEは、、今回の関税引き上げにより、米国の国内総生産(GDP)が2-3年で1.8%減少し、コア価格が1.1%上昇する可能性があると試算している。第1次トランプ政権時の貿易戦争の際に米連邦準備制度が用いたモデルを適用した。

FRBのパウエル議長は7月30日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、トランプ氏からの利下げ圧力を退け、金利の据え置きを決定した。理事の2人が利下げを主張したものの、パウエル氏はインフレリスクに対して警戒を維持する必要があるとしている。

米国の関税が、世界でさらなる貿易障壁を誘発する可能性も注目されている。EUは中国製電気自動車(EV)に関税を課し、他の国々も安価な中国製品に対する同様の規制を検討しているが、大半の国々は、トランプ氏の保護主義的な路線には追随していない。

元米国通商交渉官のスティーブン・オルソン氏は「まだ完全に無秩序な世界に戻ったわけではないが、われわれは確実にその方向に大きく後退している」と述べた。

同氏は「これで終わりとは思わない方がいい。トランプ氏にとって、これは継続中のリアリティ番組のようなものだ。さらなる取引や追加関税が続くのはほぼ間違いない」と警告している。

原題:Trump Tariff Blitz Unleashes Delayed Shock to Global Economy (1)(抜粋)

--取材協力:Jennifer A Dlouhy、Anup Roy.

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