(ブルームバーグ):ウォール街と人工知能(AI)との関係は、一時的な関心から恒常的な関与へと深化した。今では戦略構築やリスクの発見、資金の動きにまで影響を及ぼし始めている。
生成AIはもはや好奇心をそそるだけの存在にとどまらない。米オープンAIのチャットボット「ChatGPT」が登場して3年足らずで、調査や意思決定、投資業務の中核を担う「副操縦士」へと進化しつつある。
AIは日常的に活用されている。大規模言語モデルは目下、企業の決算説明会の要約や異常な市場変動の検知、調査リポートの草稿作成、ポートフォリオの意思決定支援などを担う。多くの導入は目立たず静かに進められてきたが、これらを総合すると、ウォール街の投資判断の形成、検証、実行のあり方が大きく変わり始めていることが見て取れる。
グローバルな資産運用に特化した調査会社CREATEリサーチのアミン・ラジャン最高経営責任者(CEO)は、「デジタル未来への進展は今後も続くだろう。AIや生成AIが投資バリューチェーンのあらゆる活動に浸透していく世界だ」と語る。「早期の導入組が目に見える成果を出し始めれば、一部は既にそうなりつつあると思うが、他の企業も早急に追随したくなるだろう」と続けた。
CREATEリサーチが実施した調査では、機関投資家の30%近くが生成AIを導入済み、もしくは導入を進めていることが分かった。先月に公表された同調査は、世界で計38兆ドル(約5600兆円)を運用する資産運用会社を対象に実施された。

JPモルガン・アセット・マネジメントでは、社内の投資プラットフォーム「スペクトラム」に大規模言語モデルが組み込まれている。特徴的なのは、ポートフォリオマネジャーが株式を保有する期間について、最適と推定される保有期間と比較してモニタリングする機能だ。保有期間が長過ぎたり短過ぎたりすると、アラートを発し、投資判断の再考を促す。人間の判断を上書きするのではない。
スペクトラムはまた、法案などの政策によって恩恵を受ける、あるいは打撃を受ける可能性がある企業のバスケットを自動生成することも可能だ。アナリスト予想が市場コンセンサスや企業自身の見通しと乖離(かいり)している場合には、警告を発する。最終的な判断はマネジャーに委ねられるが、AIは今や意思決定の場に同席している。
JPモルガンの投資プラットフォーム部門責任者、クリスチャン・ウェスト氏は「われわれの目的は、社員がより強力で迅速、かつ賢明な判断を下せるよう支援することだ」と述べた。
オランダの資産運用会社ロベコでは、大規模言語モデルを投資の初期段階で活用している。規制当局への提出書類や決算説明会の発言要旨、さらにはSNSの情報も分析し、投資テーマの変化をいち早く察知する。かつては投資家向け書簡の作成を補助する役割にとどまっていたが、今では売買シグナルの生成や投資商品設計にも使われるようになった。同社は昨年10月、AIが導き出したテーマの変化に基づく上場投資信託(ETF)「ロベコ・ダイナミック・テーマ・マシーンUCITS」を立ち上げた。
ロベコの次世代リサーチ責任者、マイク・チェン氏は「当社では、生成AIが超過リターン(アルファ)を生み出せるか、企業のファンダメンタルズを予測できるかなどを探る複数の研究プロジェクトを進めている」と話した。
原題:JPMorgan, Robeco Quietly Deploy AI in Daily Wall Street Routines(抜粋)
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