日米関税交渉が急転直下で合意し、日本株の勝ち組・負け組の構図が一変する可能性が浮上した。高率関税への懸念で不振だった自動車株は、想定より関税が低く抑えられたことを受け一気に買い戻しが入るなど逆襲に向け動き出した。対照的に、中長期的な商機拡大期待で投資人気を集めてきた防衛関連株、内需株からは資金が流出するかもしれない。

米テスラ車から降りるトランプ氏

トランプ米大統領は日本時間23日、日本からの輸入品に一律で課す関税率を15%とすることで合意したと明らかにした。日米間の合意を受け石破茂首相は官邸で、自動車への追加関税は25%を半減させ、元々の基本税率2.5%に上乗せする形で15%とすることで合意したと話した。

ゴールドマン・サックス証券の湯沢康太アナリストはリポートで、自動車関税が従来の27.5%から15%に下がることで、日本車メーカー7社の今期(2026年3月期)営業利益に対するマイナスの影響は3兆4700億円から1兆8900億円に縮小すると試算した。この場合、前期比の減益率は47%から25%に縮小し、さらに値上げなどにより影響額は1兆3200億円まで減る見通しだという。

三菱UFJアセットマネジメントの石金淳エグゼクティブファンドマネジャーは、自動車株について「悪材料出尽くしで今後は上昇していくだろう」と予想している。

また、参院選で大敗を喫した石破首相の進退を巡る報道が相次ぎ、次期政権が物価高への対応で財政支出を拡大するとの懸念から長期金利が17年ぶりの高水準を更新したことも投資対象に変化をもたらす公算が大きい。

読売新聞は23日、米国との関税措置を巡る協議が妥結したことを踏まえ、月内にも退陣を表明すると報道。これに対し、首相経験者との会談後に石破首相は自民党本部で記者団に、自身の出処進退について「一切話は出ていない」と述べ、報道内容を否定した。

しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンドマネジャーは、「内需関連株はこれまで関税リスクを受けて消去法的に買われていた流れが逆転する可能性がある」と分析。金利の上昇を受け、「不動産デベロッパーや不動産事業を手がける鉄道株などには逆風になりそうだ」とも話している。

日米の関税合意と石破首相の退陣報道が影響を及ぼす可能性があるセクターや関連銘柄は以下の通り。

【追い風となる銘柄】

自動車株:

  • 東証33業種の輸送用機器指数は23日の取引で11%高と急騰し、昨年8月6日(13%)以来の上昇率を記録した
    • トヨタ自動車は14%高と08年10月14日(16%)以来の上昇率、マツダも18%高、SUBARUが17%高、ホンダが11%高など急騰
    • 22日時点で輸送用機器指数の年初来騰落率はマイナス13%と下落率は精密機器(16%)に次ぐ2位となっていた

工場自動化関連株:

  • 日系自動車メーカーによる米国での設備投資が活発化するとの期待感が広がっている
  • ロボットメーカーのファナックは23日に12%高、安川電機は11%高など

銀行株:

  • 日米の関税合意によって日本銀行が利上げするハードルが下がるとの見方が広がっている
    • 日銀の内田真一副総裁は23日、高知県金融経済懇談会後の会見で、日米関税協議の合意を受け日本経済を巡る不確実性が低下し、2%物価目標の実現確度が上がるとの見解を示した
  • 23日の銀行業指数は4.4%高と東証株価指数(TOPIX)の3.2%高を上回り、上昇率は輸送用機器に次ぐ2位

【逆風となる銘柄】

防衛関連株:

  • 三菱重工業やIHIなどの関連銘柄はこれまで、米関税リスクを回避する投資家の資金逃避先となってきたが、今後は手じまい売りの圧力にさらされる可能性がある。防衛政策に精通する石破首相の退任観測も逆風になり得る
    • 三菱重は23日に0.2%安と軟調、22日時点の年初来騰落率はプラス53%と日経平均株価採用銘柄の上昇率で7位となっていた、同期間の日経平均は0.3%安

小売りなど内需株:

  • 防衛関連株と同様、「無印」ブランドで衣料品や生活雑貨を展開する良品計画、回転ずしチェーン「スシロー」のFOOD & LIFE COMPANIESといった内需株も年初来で大きく上昇しており、売りが膨らむ可能性がある
    • 良品計画は23日に4.3%安、F&LCOは3.8%安と売られたが、同日時点の年初来騰落率はそれぞれプラス89%、2.1倍となっている

不動産株:

  • 政府の財政支出拡大への思惑から国内金利が上昇し、10年国債利回りは08年以来の高水準を記録した。金利負担の増加が負債が多いセクターにとって逆風になり得る

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