(ブルームバーグ):トランプ米大統領が打ち出した関税は誰が負担しているのか。これまでのところ、米国の企業と消費者だ。
自動車メーカー大手の米ゼネラル・モーターズ(GM)は22日、関税政策の影響で4-6月(第2四半期)利益が11億ドル(約1610億円)押し下げられたと発表した。GMはコスト上昇分を自社で吸収する方針を取った結果、収益に打撃を受けた形で、関税によるコスト上昇を開示した最新の米企業となった。
こうした状況は、先週発表のインフレ指標で自動車価格が上昇しなかった理由を説明するものだ。半面、おもちゃや家電など他の輸入品では値上がりが目立ち、関税コストが消費者に転嫁されている実態が浮き彫りとなった。
一方、燃料を除いた6月の輸入物価は大きく上昇しており、外国企業が米企業に対して価格を下げる形で関税の影響を吸収していない可能性が示唆された。これは「関税は外国が支払っている」とするトランプ氏の主張に疑問を投げかけるものだ。トランプ氏は22日、フィリピンのマルコス大統領との会談後にSNSへの投稿で、同国が「19%の関税を支払う」と、持論を繰り返した。
関税収入は米政府の歳入を押し上げているものの、その原資は国内でまかなわれていることがデータに示されている。
「マクロ経済を全体から細部まで見れば、関税を支払っているのは主に米国人であることは明白だ」とドイツ銀行のグローバル外国為替調査責任者ジョージ・サラベロス氏は22日のリポートで指摘。「米国の消費者物価に今後さらなる上昇圧力がかかるだろう」とコメントした。
こうした見方に同意するエコノミストは多い。消費者物価指数(CPI)が今年、比較的穏やかな推移となっていることも、企業が関税コストの価格転嫁に二の足を踏んでいる傾向を示している。生産者物価指数(PPI)にもそれは表れている。
ウェルズ・ファーゴのエコノミスト、サラ・ハウス氏らは先週のリポートで「輸入物価の改善がほとんど見られない中で、国内企業が関税引き上げのコストを吸収しており、消費者への転嫁を始めている」と分析。「最近の輸入物価の上昇は、海外の供給業者が値下げを総じて拒否していることを示している」との分析を示した。
もっとも、米国向け輸出を維持するため、一部の海外企業がコストの一部を吸収している兆候もある。日本の輸出物価指数は3カ月連続で低下した。北米向け乗用車の輸出物価は、2016年以降で過去最大の落ち込みとなった。
しかし、ウェルズ・ファーゴによれば、米ドル下落を背景に、海外企業の中には請求価格を引き上げて対応する動きも出ている。ドイツ銀のサラベロス氏は、米企業への関税コスト負担圧力がドルにもう一つの逆風となっていると指摘した。ドルは年初来の下落としては1970年代以降で最悪となっている。
米企業がこの先も利益を犠牲にし続けるとは考えにくい。日用品・工業品メーカー、3Mは先週、生産移管や価格変更で関税の影響を緩和できるとして、通期の利益見通しを引き上げた。ナイキは、コスト増を相殺するため「的を絞った値上げ」を計画しており、関税による負担は約10億ドルに上る見込みだとしている。
シティグループのチーフ米国エコノミスト、アンドルー・ホレンホースト氏は22日のリポートで「消費者や外国企業が関税コストを負担していないとすれば、負担しているのは国内企業だ。それは最終的に企業業績に反映されるだろう」と指摘した。
原題:Americans Are Paying for Trump’s Tariffs, Not Foreign Companies(抜粋)
--取材協力:Catherine Larkin、Carter Johnson.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.