「名目値」を除いた景気指数が示す実態

この仮説をより明確に立証すべく、末廣氏が興味深い試みに取り組みました。一致指数から名目値データである「営業利益(全産業)」「商業販売額(小売業)」「商業販売額(卸売業)」の3項目を除いて指数を作り直したのです。

「名目値を除いた指数を見ると、2024年前半にピークがあり、その後は緩やかに下がっていることが分かります。私は2024年5月頃に景気の『山』があったと見ています」

分析によれば、日本経済はすでに1年前から景気後退局面に入っていたことになります。実は、これは同じく内閣府が発表しているアンケート調査をもとにした「景気ウォッチャー調査(現状判断DI)」の動きとも一致しています。

この見方はいまどれほどの広がりを見せているのか?末廣氏は「エコノミストが経済の先行きについての見方を示すESPフォーキャスト調査で、いま景気後退局面にあると答えているのは38人中…私だけです」と少数派であることを認めつつも、データに基づいた分析に自信を見せました。

末廣氏が試算した、名目値を除いた一致指数。2024年半ばにピークを迎え、その後は下降していることがわかる。

参院選後の経済政策と金融政策への影響

日本経済が実際に景気後退局面にあるとすれば、今後の経済・金融政策にも大きな影響を与える可能性があります。特にこの週末に投開票される参院選の後、本格化するであろう経済対策の議論において、より積極的な財政出動を求める声が強まるとみられます。

また、日銀の金融政策にも影響が出てきそうです。「景気が悪化していくと賃金なども伸びにくくなる。仮に利上げしたとして、その後に景気悪いデータが出てきたら『利上げしない方がよかったんじゃないか』となりかねない」と末廣氏は指摘します。

こうしたなか金融市場では、財政拡張への警戒感が広がり、長期金利が上昇を続けています。

10年国債の金利推移を示すグラフ。最近の上昇傾向が顕著に表れている。

参院選を前に「トリプル安」(円安・株安・債券安)の気配が色濃いなか、末廣氏は「コロナ後のずっと回復してきた局面が終わりつつあるという認識は皆さん知っておいた方がいい」と警鐘を鳴らします。選挙前後の市場から日本経済の現状について、さらなるシグナルが見えてこないか関心が高まっています。

※この記事は7月14日(月)に配信した「The Priority」の内容を抜粋したものです。