日本経済の現状を正確に把握することは、投資判断や政策評価にとって極めて重要です。しかし、その経済指標が実は実態を映し出していないとしたら…?大和証券チーフエコノミスト・末廣徹氏が、これまでの景気判断には盲点があり、日本経済は「すでに景気後退局面に入っている」という可能性を指摘します。参院選を前にした今、日本経済の本当の姿を読み解いていきます。
「一致指数」の落とし穴 — インフレと円安で膨らんだ営業利益

経済の状況を把握するための重要な指標の一つが、内閣府が発表する「景気動向指数」です。このうち景気の現状を表す「一致指数」が2025年5月に約5年ぶりに「悪化」と判断されました。この評価は「景気後退の可能性が高いことを示す」とされています。

さらに、GDP成長率も1-3月期にマイナス0.2%となり、4-6月期もマイナス成長の可能性が指摘されています。エコノミストの予測の平均は「+0.01%」、ほぼゼロ成長の見通しです。仮に2四半期連続のマイナス成長となれば「テクニカル・リセッション(景気後退)」の状態となります。
しかし末廣氏は、日本経済はそもそもさらに前から景気後退に入っていた可能性があると指摘します。その理由は「一致指数」の中身にあります。

「一致指数は10項目の経済指標で構成されていますが、このうち3つが名目値のデータです。特に『営業利益(全産業)』が指数を押し上げる大きな要因となっています」
末廣氏の分析によれば、インフレと円安の影響で企業の営業利益が名目上膨らんでいるため、一致指数が過大評価されているのです。

一致指数の累積寄与度を示すグラフ。営業利益の寄与が顕著に大きいことが分かる。