「今となっては安定株主ではないかもしれない」。太陽ホールディングス(HD)前社長の佐藤英志氏は、定時株主総会を目前に控えた6月中旬、揺れる心情を吐露した。資本提携先で筆頭株主のDICが、太陽HDの買収提案への対応が不十分との理由で、佐藤氏の再任に反対を表明していたためだ。

毎年6月にピークを迎える企業の株主総会に異変が起きている。三井住友信託銀行の調べでは、2025年の6月総会では会社側が提案した取締役選任議案で6社の26件が否決された。前年に否決された2社の2件から大幅に増えた。

太陽HDは業績面は好調だが、佐藤氏の再任が否決される異例の事態となった。米投資ファンドKKRや日本産業推進機構(NSSK)から非公開化などの提案を受けていた。

経営手法への懸念広がる

企業経営コンサルティングを手がけるボードアドバイザーズのパートナー、野口智弘氏は今シーズンを「経営者を正しく選ぶことにこれまで以上に注目が集まった」と総括する。三井住友信託銀によれば、取締役の質の向上など企業統治(ガバナンス)をテーマとする株主提案が104件と前年から倍増した。

日本では毎年6月に多くの株主総会が開かれる

選任に異を唱えた主要株主の主張を見ると、経営手法への懸念が浮かび上がる。日本航空(JAL)が筆頭株主で航空機への電力供給などを担うエージーピー(AGP)は、JALなどの反対で社長を含む8人の取締役選任案が否決された。

総会の招集通知によると、JALは「少数株主との間の利益相反構造を過度に強調するあまり、一般的な対話さえ行うことが困難な状況」だと批判していた。JALが出していた株式併合議案は可決され、AGPの非公開化が決まった。

少数株主の発言力も会社側にとって無視できないほど大きくなってきている。三井住友信託銀によると、株主提案を受けた114社のうち、提案者がアクティビストら機関投資家だった企業は51社で過去最高を記録した。可決された株主提案は7社で14議案を数え、前年の2社2議案を大きく上回った。

栄研化学の総会では、英投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が提案した剰余金の配当に関する定款変更の議案が73%の賛成を得て可決された。配当について「株主総会の決議によっては定めない」とする条項を削除する提案に、会社は反対を表明していた。

定款変更は出席株主の3分の2の賛成が必要な特別決議に当たる。AVIの保有比率は約4.9%で、可決へのハードルは決して低くなかった。AVI日本調査責任者の坂井一成氏は「持続的な株主共同の利益に資する提案内容だった」ことで、多くの賛同を得られたとコメントした。

企業のベストオーナーは誰か

最高経営責任者(CEO)の取締役選任議案に反対票を投じて意思表明する投資家も増えてきた。ゴールドマン・サックス証券のリポートによると、25年はリコー(64%)や三菱UFJフィナンシャル・グループ(65.2%)の承認率の低さが目立った。大企業で80%以上を得る割合はここ数年低下傾向にある。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券のM&Aアドバイザリー・グループ統括責任者を務める竜口敦氏は、今後はM&A(合併・買収)でも株主の動きが起点となる事例が増えていくとみる。企業価値の向上につながる抜本的な改革に踏み込めない企業には株主が事業再編などを「主張していく可能性がある」と話した。

ボードアドバイザーズの野口氏は「企業のベストオーナーは誰かということが6月総会の隠れたテーマだった」と指摘する。上場企業である限り、企業価値の最大化をできずに「祖業だから、雇用を守りたいからといった言い訳は通用しなくなってきている」と分析する。

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