トランプ米大統領が側近らと共に、連邦準備制度理事会(FRB)本部の高額な改修工事をパウエルFRB議長を非難する新たな切り口として利用している。

こうした改修プロジェクト批判は、トランプ氏と同氏の周辺が、経済政策以外の面でも米中央銀行のトップであるパウエル氏の指導力を徹底的に検証しようとしている姿勢を最も端的に示す事例だ。

FRB本部改修を口実とし、パウエル氏をFRB理事会から追い出すために必要な高い法的基準を満たす根拠づくりを進めているように見える政権関係者もいる。パウエル氏に対するこうした圧力は、利下げを迫るトランプ氏の執拗(しつよう)な要求と同じタイミングで高まっている。

パウエル氏を中心とする連邦公開市場委員会(FOMC)は今年に入り利下げの求めに応じておらず、トランプ氏はこれに激しく反発。パウエル氏の議長任期が2026年5月に終わる際には、利下げに前向きな人物を後任に据える考えをトランプ氏は明確にしている。

トランプ氏は13日、「パウエル氏は米国にとって非常に悪い存在だ」と、アンドルーズ空軍基地で記者団に語った。「米国の金利は世界で最も低くなるべきなのに、そうなっていない。彼がそうすべきなのは明らかだ。彼はFRB本部改修に25億ドル(約3700億円)も使っている」とし、「彼には辞めてもらいたい。彼は辞任すべきだ」と話した。

体制変更

元FRB理事のケビン・ウォーシュ氏はFOXニュースの番組で「必要なのはFRBの体制変更だと思う。それは議長だけにとどまらず、さまざまな人物に及ぶものだ」と述べた。「FRBのやり方はうまくいっていないため、一部の人物を更迭する必要があると考える」と続けた。

利下げも主張しているウォーシュ氏は、パウエル氏の後任候補として広く名前が挙がっている。

FRB本部の改修工事(6月25日)

ただ、パウエル氏のFRB理事としての任期は28年まで残っている。パウエル氏は議長の任期満了を迎えた後、理事会を離れるかどうかについての質問に対し、回答を避けている。過去のFRB議長はほぼ例外なく、議長職を退いた時点で理事を退任している。

独立性への挑戦

政権幹部や一部の共和党議員はこのところ、FRB本部の改修プロジェクトに照準を定め、その費用増大や過度に豪華と見なす設計やパウエル氏が議会で行った証言に異議を唱えている。

コロンビア大学で連邦準備制度を研究しているキャスリン・ジャッジ教授は、「建物改修に過剰かつ不適切な支出が行われているという見方は、FRBが一般市民の現実から乖離(かいり)しているという否定的な固定観念を助長しかねない」と指摘。

「こうした状況はFRBの対外的な信頼性を損ねるだけでなく、大統領と国民に対してより責任を負うFRBが必要だというトランプ氏の主張に正当性を与えかねない」と述べた。

ハセット国家経済会議(NEC)委員長はABCの番組に出演し、パウエル議長の将来は改修費用に関する質問にどのように答えるかによって決まると述べた。

「FRB創設に賛同した人々は、FRBが好き勝手に紙幣を刷ってばらまくような事態になるとは、決して想像していなかった」と語った。

ホワイトハウスのデサイ報道官は声明で、大統領は「FRBが自ら掲げる目的を果たしていないことを指摘すると同時に、税金が米国民にとって無益なことに浪費されないよう監視することができる」と説明した。

パウエル氏(6月25日)

ドイツ銀行で外国為替戦略グローバル責任者を務めるジョージ・サラベロス氏は顧客向けリポートで、パウエル氏解任の可能性は過小評価されている重大なリスクであり、ドルや米国債の売りを引き起しかねないと警告した。

リポートによれば、市場はパウエル氏解任について「極めて低い確率」と見込んでいる。予想市場のプラットフォーム「ポリマーケット」でその可能性が20%未満とされ、ドルも最近はおおむね安定していることに触れた。

サラベロス氏は仮にトランプ氏がパウエル氏を辞任に追い込んだ場合、その直後の24時間でドルの貿易加重指数が少なくとも3-4%下落し、米国債市場では30-40ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利回り上昇を招く売りが出る公算が大きいと分析。

ドルと米国債には「持続的」なリスクプレミアムが織り込まれ、他の中銀との通貨スワップ協定が政治利用されるのではないかという不安が投資家の間で高まる恐れもあるとしている。

サラベロス氏は「こうした事態が起きれば、投資家はFRBの独立性への明白な挑戦と受け止めるだろう」とし、FRBが世界のドル金融システムの中枢にあることを踏まえれば、その影響は米国の枠を超えて広がるのは明らかだ」とコメントした。

理事職

FRBは、本部の歴史的建造物2棟の改修について、業務を集約することで将来的なコスト削減につながるとしている。しかし批判派は、費用の膨張に加え、一部メディアで取り上げられた豪華な設計とされる内容に注目している。

FRBの予算文書によると、改修費見通しは今年25億ドルに増加。23年時点では19億ドルだった。「特に機械・電気・配管関連での競争入札価格の上昇により、建設費見積もりが引き続き膨らんでいる」という。

行政管理予算局(OMB)のボート局長はパウエル氏宛ての書簡を公開し、このプロジェクトを批判するとともに詳細な説明を求めた。

ソーシャルメディアに投稿された書簡は、「FRBの財政状況を是正する代わりに、ワシントン本部を華美に改装する道を突き進んでいる」と主張し、パウエル氏がFRBの運営を「著しく誤った」と投稿した。

また、連邦準備制度の金融政策に強く反発してきた連邦住宅金融局(FHFA)のパルト局長も、改修を巡りパウエル氏に矛先を向けた。

パルト氏は具体的な根拠を示さずに、パウエル氏が6月25日の上院公聴会でプロジェクトの詳細について虚偽の証言を行ったとし、議会に調査を求めている。

仮にパウエル氏が議長を退いた後、理事としてFRBに残れば、トランプ氏が新たな議長を任命し、金融政策への影響力を強めようとする構想にとって障害となる可能性がある。

そもそも、FOMCは12人のメンバーによる多数決で金利を決定するため、大統領が政策を主導するのは容易ではない。

パウエル氏が理事としてとどまれば、トランプ氏は新たな理事の任命枠を1つ失うことになる。さらに、パウエル氏が新しい議長よりもFOMC内で大きな影響力を保つ可能性もあり、新議長が連邦準備制度内で信頼を欠くような人物であれば、なおさらその傾向は強まるだろう。

ジャッジ教授は、FRBの支出に対してホワイトハウスが説明責任の観点から詳しく調べるのは適切だとしつつも、今回のケースでは文脈が重要だと強調。

「政権がパウエル氏に対し、利下げをもっと早く、もっと大幅に行うよう強く求め、さらには早期退任まで迫ってきた経緯を踏まえると、今回の対応が純粋に監視の一環とは到底思えない」と述べ、「改修費用への懸念が表向きの口実に見えてしまうのは、信頼性を損なう健全でないアプローチだ」との見方を示した。

原題:Trump Allies Open New Front With Powell Over Building Rehab (2)、Trump Allies Open New Front Against Powell Over Building Rehab、Deutsche Bank Strategist Says Powell Exit Risk Underpriced (1)(抜粋)

(トランプ大統領の発言を本文5段落目に加えて更新します)

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