中国共産党指導部は国内経済を長年悩ませてきたデフレ懸念と激しい価格競争に対し、ようやく本格的な対応に乗り出す兆しを示している。

中国政府が発信する内容はここ数週間で明らかに変化しており、習近平党総書記(国家主席)が率いる指導部は、鉄鋼や太陽光パネル、電気自動車(EV)といった幅広い業種で価格や利益を圧迫している激しい競争について、これまでで最も率直な分析をしている。

工場出荷価格の下落が3年近く続き、米国の関税や貿易摩擦による圧力の高まりが、スタンスの転換を促している。

 

この問題に解決の道筋が見えれば、世界経済には朗報だ。長年、貿易相手国との摩擦要因となってきた過剰生産能力の抑制に成功すれば、貿易摩擦の緩和と信頼回復につながる可能性がある。

ただし、先行きは不透明だ。習指導部は外需が鈍化し、米国との恒久的な貿易協定が依然として見通せない中、成長を阻害したり雇用を脅かしたりすることなく、供給過剰を抑制するという難題に直面している。

JPモルガン・チェースの劉鳴鏑チーフストラテジスト(アジア・中国株担当)はブルームバーグテレビジョンとの9日のインタビューで、対策が「適切に実行されれば、中国の過剰生産能力や輸出過剰がもたらす国際的な緊張を和らげるという点で、世界貿易にとってプラスになる」と指摘。

その上で「ただし短期的には、GDP(国内総生産)や雇用に優しい政策ではないため、バランスの取れた対応が求められる」とも語った。

劉鳴鏑氏が語る

国家統計局が9日発表した6月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比3.6%低下と、2年9カ月連続で前年割れ。市場予想を超える落ち込みで、2023年7月以来最大のマイナスを記録した。

強いシグナル

明確な政策が正式に発表されたわけではないが、総合的な対応策への期待が高まりつつある。今月開かれた共産党中央の経済政策を担当する最高機関の会合では、効率よりも生産量を重視する税制や地方政府による投資促進といった問題を引き起こしている根本的な要因が認識された。

ただし、デフレへの直接的な言及はない。デフレは政府にとって長らくタブーとされてきたテーマだ。

それでも、パンテオン・マクロエコノミクスの中国担当チーフエコノミスト、ダンカン・リグリー氏は党中央の認識について、「中国の政策当局が自動車などの業種での無秩序な競争と価格競争の是正に乗り出す意思を示すこれまでで最も強いシグナルだ」と指摘。

自己規制による生産抑制がほぼ失敗に終わった業界団体について触れられなかったことについては、「より強いトップダウンの姿勢を意味する可能性がある」との見方を示している。

 

業界団体や政府系メディアもこうした論調の変化に呼応し、価格競争の終結に向けた取り組みを呼びかけている。

建設用の主要鋼材である鉄筋の価格が17年以来の安値に下落し、ガラスも9年ぶりの安値水準付近となる中で、鉄鋼やガラス製造などさまざまな業種の企業が生産削減を計画していると伝えられている。

中国人民銀行(中央銀行)も同様の懸念を示しており、価格低迷の継続を経済の主要課題として数年ぶりに挙げた。5月には物価下落圧力に関する詳細な分析を公表し、投資と供給に偏った成長モデルの下では、金融緩和による景気刺激には限界があると強調した。

中国工業情報省は太陽光関連企業と会合を開いたほか、建設関連の約30社以上が「内巻式」競争に反対するイニシアチブに署名した。内巻式とは、生産能力の過剰がもたらす競争激化を指す中国独特の用語だ。

政府はまた、不公正な商慣行の是正に向けた取り組みの一環として支払い遅延に関する取引先の苦情を受け付ける窓口を設けた。

原題:Xi Signals China May Finally Move to End Deflationary Price Wars(抜粋)

--取材協力:Ocean Hou、Yvonne Man、Annabelle Droulers.

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