ハーバード大学で2つの学位を取得したジェシカ・タンさんは、卒業から約20年間、大学に直接寄付することはほとんどなかった。ハーバード大の労働慣行を公然と批判したことさえある。

ところが、そんなタンさんは今、草の根運動「クリムゾン・カレッジ」の共同創設者となり、ハーバード大がトランプ政権に対抗するための支援と資金集めに取り組んでいる。活動は、これまで大学にほとんど、あるいは全く寄付をしてこなかった卒業生や、近年のさまざまな論争への対応に不満を抱いてきた人々を巻き込んでいる。

米国最古で最も裕福な大学であるハーバード大には、国内有数の強力な同窓組織が存在するが、2023年10月以降のパレスチナ自治区ガザでの戦争を受けた、キャンパス内の抗議活動や反ユダヤ主義的な事件への対応を巡り、強い非難と寄付の減少に直面していた。その後、ハーバード大が抗議活動を取り締まろうとしたことで、大学当局と一部の学生・教職員・卒業生との間にはさらなる亀裂も生じた。

だが、今年に入り、アラン・ガーバー学長がトランプ政権に対して強硬な姿勢を示したことで、学内には強い結束が生まれている。

タンさんは「私たちはすべてに同意しているわけではない。でも、この共通の価値観には合意できる。連邦政府の権限濫用と報復行為は非常に危険であり、ハーバードにとってだけでなく、民主主義そのものにとっても脅威だ」と強調した。

マサチューセッツ州のケンブリッジにあるハーバード大学の図書館

遙かに及ばず

「クリムゾン・カレッジ」は、ウェブサイトやソーシャルメディアを通じた呼びかけを通じ、2週間足らずで5万ドル(約720万円)超を集めた。主催者らは、金曜日の同窓会デーに向けて卒業生がキャンパスに戻ることで、さらなる寄付を見込んでいる。

とはいえ、これはトランプ政権によって凍結されたハーバードへの連邦資金26億ドルや、非課税資格剥奪の脅威、外国人学生の受け入れ阻止の動きによって危ぶまれる数十億ドル規模の金額に比べれば、ごくわずかだ。

この草の根的な資金集めでは、ハーバードの530億ドルの基金を支えてきた伝統的な大口寄付とは比べものにならず、こうした活動が大学の財務状況を安定させるには限界がある。ハーバード大への現金寄付は、2024年6月末までの会計年度には、レオン・ブラバトニク氏やケン・グリフィン氏ら著名な支援者が寄付を一時停止したこともあり、15%減少した。

クリムゾン・カレッジの設立イベントには、マサチューセッツ州のヒーリー知事(民主党)や、保守系評論家ビル・クリストル氏といった著名な卒業生も駆けつけ、5千人以上の視聴者を集めた。だが、経済的余裕のある卒業生たちが、この呼びかけにどれほど応じるかはまだ不透明だ。

新たな忠誠心

それでも、ハーバード大の学生、卒業生、教職員の中には、新たな忠誠意識が芽生えつつある。

5月に行われたハーバード大の卒業式では、数百人の卒業生とその家族が、ボランティアが配布したクリムゾン・カレッジのステッカーを身に着けていた。ガーバー学長は複数のスタンディングオベーションを受け、昨年巻き起こった激しいブーイングとは対照的な光景が見られた。

クリムゾン・カレッジは、トランプ政権の資金凍結を巡るーバード大の訴訟を支援する友好的意見書のため、8000人超の署名集めにも貢献した。

ガーバー氏は卒業生に対し、支出の不足を補うための特別に新設された基金への寄付も呼びかけている。クリムゾン・カレッジが調達した資金は、この基金に充てられる。

クリムゾン・カレッジは、その使命を「ハーバード大や全国の高等教育における、学問の自由と憲法上の権利を擁護すること」と定義している。政治的に包摂的であることに細心の注意を払い、ウェブサイトではトランプ大統領の名前に一切言及せず、「連邦政府による財政的、その他の違憲な脅威」との表現にとどめている。

ハーバード大も、改革が必要とのホワイトハウスの見解に同意しつつ、学術、キャンパス内の政策を管理する権利を守るという微妙なバランスを保とうとしている。ユダヤ人のガーバー氏は、ハーバード大の反ユダヤ主義への対応について謝罪し、自身も同大学で偏見を受けたことを認めた。ただし、政府の要求の度合いは、「反ユダヤ主義に対処するため、私たちと協力するつもりがない」ことを示しているとも述べている。

ガーバー氏のこのメッセージは、ハーバード大のコミュニティの一部で共感を呼んでいるようだ。

クリムゾン・カレッジのもう一人の創設者で不動産マネジャーのハンター・マーツさんは「多くの人が、タンスにしまっていたハーバードのトレーナーを、今取り出そうとしている」と述べた。

原題:Harvard’s Battle With Trump Reignites School Pride Among Alumni(抜粋)

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