(ブルームバーグ):週明けの東京市場で、日本製鉄の株価が続伸している。トランプ米大統領が同社とUSスチールとの提携を発表したことを好感した動きだが、同氏の曖昧な「承認」には疑問の声も出ている。
1年5カ月以上にわたるロビー活動と激しい交渉後、日鉄は23日にトランプ氏の承認を受けて同業USスチール支配権を手に入れることができたかのように見えた。ただ、それから数日経過した今も、投資家や経営陣、外交関係者らは、トランプ氏が何を承認したのか、はっきりとは把握できていない。
トランプ氏は日米鉄鋼大手による「計画的なパートナーシップ(提携)」を評価。それによって「少なくとも7万人」の雇用が創出されると主張した。これはUSスチールの現在の米従業員数の約5倍に相当し、米経済に140億ドル(約2兆円)の効果をもたらすとも述べた。
だが、この予想外の発表には日鉄による総額141億ドルのUSスチール買収計画を明確に支持する言葉は見られなかった。その代わり、トランプ氏はUSスチールが「米企業にとどまる」と言及するにとどめた。
トランプ氏は25日も明確な説明をほとんどしなかった。 「米国によってコントロールされることになる。そうでなければ自分はこの取引を認めない」と、トランプ氏はニュージャージー州モリスタウン空港で記者団に語った。「これは投資であり、部分的な所有だが、米国によってコントロールされることになる」と話した。
こうした曖昧さに直面した日鉄とUSスチールは「パートナーシップ」や「大胆な」決断を称賛するコメントを出したが、買収計画に関する具体的な言及や説明はなかった。
ひとまず好感
きょうの東京市場で日鉄株は続伸し、一時前営業日比7.4%高の3081円を付けた。USスチール株も23日、21%余り上昇して取引を終了しており、買収を巡る投資家の楽観的な見方が再び強まったことを示唆している。
大和証券の坪井裕豪チーフストラテジストは、トランプ氏の発言をサプライズだったとした上で、きょうの日鉄株について、「買収を進めることで将来の成長につなげるんだというのは常々言っており、会社の成長イメージがマーケットでは評価されているのではないか」と分析した。
一方、市場には慎重な意見も聞かれた。SMBC日興証券のアナリスト、山口敦氏らはリポートで、詳細が判明しないと現段階では評価が難しいとした上で、報道された追加投資を加えると今回の案件は割高と評価される可能性があるとの見方を示した。日鉄には借入金増加に加え増資の可能性が高まるとも述べ、「早期に投資からのリターンを株式市場に示す必要があるだろう」とした。
トランプ氏による支持表明を受けて、日鉄のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は、トレーダーによると約20ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇する見通しだ。クレジット市場では巨額投資による日鉄の財務悪化が懸念されている。
買収の可否を最終的に決定する立場にあるトランプ氏は、以前から日本によるUSスチールへの投資には賛意を示していたが、完全子会社化には反対の立場を取っていた。昨年12月にはSNSで、「かつて偉大で強力だったUSスチールが外国企業に買われることには断固反対だ」と投稿していた。
完全子会社化が承認されれば、大きな方針転換となる。日本からの多額の資本流入は、USスチールに新時代をもたらす可能性がある。だが、老朽化して効率が低く高コストの統合型資産の維持といった制約条件が付く可能性もあり、日鉄は株主に買収の正当性を説明する必要に迫られる。
原題:Trump Backing for Nippon Steel Deal Comes With Big Questions(抜粋)
(株価やアナリストのコメントを加え再構成しました)
--取材協力:Ayai Tomisawa、横山桃花.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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