要旨
18日に行われた東欧2ヶ国の大統領選挙は、何れも親EU派が勝利した。親EU派と欧州懐疑派の一騎打ちとなったルーマニアの大統領選挙は、初回投票でリードした極右政党党首が敗れ、独立派のブカレスト市長が勝利した。事前の世論調査は拮抗し、極右候補が勝利していれば、ロシアの選挙介入などで無効となった昨年11月の大統領選挙で最多票を獲得した親ロシア候補を首相に任命していた可能性があった。全会一致を原則とするウクライナ支援やロシア制裁でのEUの団結にひびが入る事態は回避された。巨額の財政赤字を抱えるルーマニアは、投機的な水準への格下げリスクに晒されており、次期首相がどのような経済・財政運営を行うかにも注目が集まる。
ポーランドの大統領選挙の初回投票では、2023年の議会選挙で政権を奪取した親EU会派の候補が最多票を獲得し、前政権を率いたEUに懐疑的なナショナリスト政党の候補とともに、6月1日に行われる決選投票に進んだ模様。このまま親EU候補が大統領の座を掴めば、ポーランドの親EU路線への転換がより確実なものとなる。
ヨハニス前大統領の任期満了(任期5年、三選禁止)に伴うルーマニアの大統領選挙は、ロシアによる選挙介入やソーシャルメディアの不正操作を理由に昨年11月の選挙が無効とされ、やり直し選挙の初回投票が5月4日に、上位2名による決選投票が18日に行われた。親EU派と欧州懐疑派の一騎打ちとなった決選投票では、中道系独立候補で首都ブカレストのダン市長が53.7%の支持を集め、極右政党・ルーマニア人統一同盟(AUR)のシミオン党首の46.3%を上回り、勝利した。
初回投票で与党統一候補(アントネスク氏)が敗北したことを受け、チョラク首相は5日、連立政権が正当性を失ったとして、首相辞任と自らが率いる社会民主党(PSD)の連立離脱を表明した。チョラク首相の辞任を受け、任期満了のヨハニス前大統領を引き継いだボロジャン暫定大統領は6日、プレイドウ副首相兼内相を新政権が発足するまでの暫定首相に任命した。国民による直接選挙で選ばれる同国の大統領は、国家元首として儀礼的な役割を担うと同時に、首相の指名や任命、首相が提案する閣僚候補の再考提案、憲法裁判所の裁判官の任命、議会の解散、法案の差し戻し、外交・国防・公序上の重要事項に関する閣議開催、国民投票の発議、軍の最高司令官、非常事態の宣言などの役割や権限を持つ。
勝利を逃したシミオン氏は、無効とされた昨年11月の大統領選挙で最多票を獲得したが、やり直し選挙への出馬が認められなかったジョルジェスク氏を首相に任命する可能性を示唆していた。その場合、ウクライナへの軍事支援停止、トランプ政権に倣った自国第一主義、海外製品への依存度低下、エネルギーや食料の生産拡大などを主張する可能性があったことから、ルーマニアがこれまでの親欧州連合(EU)・親北大西洋条約機構(NATO)路線から転換し、全会一致を原則とするウクライナ支援やロシア制裁でのEUの団結にひびが入る恐れもあった。
昨年11月の大統領選挙でのロシアの選挙介入を受け、ルーマニア政府はソーシャルメディア上の監視を強化している。だが、一部の市民団体やリベラルな政治勢力からは、政府が導入した広範囲且つ懲罰的なソーシャルメディアの監視措置が、一般市民の自由な発言をも阻害し、選挙の客観性を損なっているとの批判も一部で浮上している。シミオン氏が勝利していた場合、今回の選挙結果についても、その正統性に疑問が投げかけられる恐れもあった。
決選投票の得票率は初回投票を上回り、過去25年の総選挙で最も高かった。初回投票で敗退した親EU候補の支持者や反EU政権の誕生を恐れた有権者がダン候補支持に回ったものと思われる。主要政党に所属しないダン候補の勝利で、次期政権の枠組みは不透明だ。政権運営を担う首相に誰を任命するかに注目が集まる。2024年のルーマニアの財政赤字の対GDP比率は▲9.3%と、EU内で最も高い。投機的な水準への格下げリスクに晒されており、次期首相の経済・財政手腕にも期待が集まる。