イスラエル・ロシア・ポーランド・独とともに日本も大幅増、ただし GDP比は低水準

先に述べた通り、世界各地で地政学的緊張が高まっており、各国が安全保障への備えを強化している。2024 年の軍事費上位 15 か国の軍事費(名目)・GDP 比・世界シェアをみると、GDP比はウクライナの 34.48%が突出しており、ひとたび侵略を許すとその社会的・経済的影響は甚大なものとなることを示している。

続いて2023年から2024年にかけての増加率(実質US $)をみてみる。イスラエルの64.6%、ロシアの 37.8%、ポーランドの 30.9%、ドイツの 28.3%、日本の 21.2%の順となる。戦時下のイスラエル、ロシアを除くと、ロシアと国境を接するポーランドやその隣で長年の軍事費抑制策から大きく政策転換したドイツの増加率が際立つ。15位以内には入っていないが、オランダの 35.0%、NATO に加盟したスウェーデンの33.9%も含めて、ロシアの脅威にさらされた欧州の軍事費増加が目立つ。

最後に日本についてみてみる。ランキングは 10 位で 2023 年から変わらないが、長期的趨勢としては経済力の相対的低下に伴い、順位・シェアともに低下傾向にある。経済規模が世界 3 から 4 位に位置しているにも関わらず、軍事費が 10 位ということは、経済規模に比して軍備に投じている金額が小さいことを意味し、GDP 比 1.37%は G7 の中で最下位である。日本は GDP 比 2%を目指して防衛費の増額を進めているところであり、2024 年も増加率は 21.2%と極めて大きいものの、他国との相対感ではまだまだ少ないということになる。

2025年1月、トランプ政権は「アメリカ第一主義」をかかげて誕生した。ロシアとの融和姿勢を示す、カナダを 51 番目の州呼ばわりする、あるいはグリーンランドの獲得意志を表明するなど、「力の支配」に傾倒しつつある。バンス副大統領は 2025 年 2 月のミュンヘン安全保障会議で「欧州の最大の脅威は外部ではなく内部にある」と断じて、民主主義や同盟の価値観そのものに疑義を投げかけた。こうした方針や発言は、軍事力がものを言う「力の支配」の足音を感じさせるものであり、各国の防衛努力を強く促すものとなっている。今回の SIPRI のデータは 2024 年、すなわち 2025 年 1 月の第 2 次トランプ政権誕生前までである。当面、各国の軍備増強の動きは続くであろう。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 取締役 総合調査部長 石附 賢実)