トランプ米大統領の関税が事業に深刻な打撃を与え始めていると、自動車やビール、航空会社に至るまで、欧州の企業が悲鳴を上げ始めた。

一部企業では、関税が利益率を圧迫し、売上高に悪影響を及ぼしており、生産を米国に移転するというコストのかかる措置を余儀なくされている。世界経済への影響が大きな懸念材料となっている企業もある。また、ほぼ全企業にとって、関税の最終的な水準に関する不確実性により、効果的な予測がほぼ不可能になっている。

ポルシェは28日、通期の営業利益率見通しを引き下げ、米国の関税をその一因に挙げた。トランプ関税は同社の4月の販売に打撃を与え、5月の業績にも影響を及ぼす見込みだ。6月以降の影響については予測できないとしている。シティグループのアナリスト、ハラルド・ヘンドリクセ氏の推計によると、値上げをしないと仮定した場合、ポルシェが負う関税の年間コストは20億ユーロ(約3200億円)に達する可能性がある。

同社の株価はドイツでの取引で一時7.6%急落し、この1年間では価値の約半分を失っている。

ドイツのブレーマーハーフェン港に置かれたポルシェの新車

ボルボ・カーは29日、需要の低迷と貿易摩擦が業界に重くのしかかる中、20億ドル(約2800億円)近くのコスト削減計画を発表した。同社は関税の不透明さを理由に、今年と来年の業績見通しを撤回した。ハカン・サミュエルソン最高経営責任者(CEO)はブルームバーグテレビジョンに対し、関税は「グローバル企業に大きな打撃を与えている」と述べた。

食品・衣料大手のアソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズは、衣料品の多くをアジアで製造しているため、傘下の低価格ファッションチェーン「プライマーク」が米関税引き上げによる短期的な影響を受けると明かした。プライマークは米国で販売する一部商品の価格を引き上げる必要があり、ジョージ・ウェストンCEOは、労働集約的でコストがかかるプロセスになると述べた。

アディダスやルフトハンザドイツ航空など、現在需要が堅調な企業でも、米関税の長期的な影響を懸念している。

アディダスのスニーカー

アディダスでは1-3月期(第 1 四半期)の利益が予想を上回ったものの、貿易戦争を理由に通期業績予想の引き上げは見送った。ビヨン・グルデンCEOは、関税に関する不確実性が「今年後半の業績予想にマイナスの影響を与える可能性がある」と懸念を示した。

欧州最大の航空グループ、ルフトハンザも、貿易摩擦や消費者の行動変化で経済が混乱していることを受け、今年後半の業績見通しは限定的としている。同社は、マクロ経済の不確実性、特に米欧の貿易摩擦が、重要な夏季の業績見通しを曇らせていると述べた。

ゼネラル・モーターズ(GM)も、関税の影響が明確になるまで利益見通しを取り下げ、40億ドルの自社株買いも停止した。同社は、トランプ政権からの関税の詳細を待つため、アナリスト向け電話会議を5月1日に延期した。

アストラゼネカのパスカル・ソリオCEOは、関税は医薬品を管理するための最善の手段ではないとして、製薬各社がトランプ政権に対し、医薬品を関税の対象から除外するよう働きかけていると述べた。トランプ氏は、医薬品への関税賦課の可能性を繰り返し示唆しているものの、同業界は今のところ、関税の対象から外れている。

ソリオ氏はブルームバーグ・テレビジョンで「製造や研究開発への投資を呼び込むには、国内投資を促す税制政策がより良いインセンティブと考えている」と強調した。とはいえ、アストラゼネカは米国に製造拠点があるため、関税の影響は一時的なものにとどまるという。

アストラゼネカのパスカル・ソリオCEOは、医薬品を関税の対象から除外するよう、トランプ政権に働きかけている

デンマークのビールメーカー、カールスバーグは、米国市場でのシェアが小さいため、競合他社に比べて関税の影響は限定的と見込まれるが、サプライチェーン(供給網)における間接的なインフレ圧力、特に包装分野での影響が価格に及ぶ可能性があるという。

同社のジェイコブ・アーラップ・アンダーセンCEOはブルームバーグ・テレビジョンに「現在の世界的な貿易の不確実性を考慮すると、消費の鈍化は当面続くものと予想している」と語った。

原題:From Porsche to Carlsberg and JetBlue, Tariff Toll Spreads (3)(抜粋)

--取材協力:Sabah Meddings、Deirdre Hipwell.

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